「引きこもり」というと、まず男性を思い浮かべる人がほとんどだろう。しかし、15歳から39歳までを対象にした内閣府の調査(2016年発表)では、引きこもり54万1000人のうち、女性が36.7%を占めている。統計では「専業主婦(夫)や家事手伝い」「ふだん家事・育児をしている者」は引きこもりの定義から除かれているが、社会では紛れてしまい、女性の引きこもりは外から見えにくいという特徴がある。長期化を防ぐ手立てはあるのか。ある女性のケースから考える。
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「自分では、引きこもりというよりニートという意識でした」
井原萌さん29歳(仮名)。定年後に再就職した父親と、パート勤めの母親、大学生の弟とともに実家で暮らしている。
萌さんは現在、ホテルのベットメイキングのアルバイトをしているが、その前に1年半の引きこもりを経験した。短大を卒業した後に勤めた会社を辞めると、部屋でネットサーフィンをして一日を過ごすように。家族ともあまり話さず、友人とも会わない。そんな生活をだらだらと続けていくうちに、いつの間にか1人で生きていく自信を失い、気が付いたら1年半が経っていたという。
厚生労働省では、「仕事や学校に行けず家に籠り、家族以外とほとんど交流がない状態が6か月以上続いた場合」を引きこもりと定義している。そういう意味では、萌さんは立派な引きこもりだったわけだ。もともとあまり社交的なタイプではなかった萌さん。そんな萌さんが、引きこもりが長期化する前に、どうやって抜け出すことができたのだろうか。
その答えを記す前に、引きこもるまでの萌さんの生活を振り返ってみよう。短大を卒業後、清掃会社で働いていた。やりたいことがとくに見つからず、短大の先生に相談して「なんとなく」決めた就職先だった。
最初の職場は病院。朝7時には仕事を開始して、夕方4時まで、フロアのモップ掛けや浴室の清掃など、休憩時間以外は休む間もなく夢中で働いた。
「看護師や看護助手の人たちがきびしくて、緊張していました。ほかのスタッフが休むと仕事が増えて、大変なこともありました。昼休みはいつもぐったり寝ていましたね」
仕事中は無駄話などできない雰囲気で、休憩中も一人。一緒に入社した同期は、アレルギーが原因でやめてしまい、同僚に心を許せる人はいなかった。
その後、職場はオフィスビルの中に変わったが、萌さんは変わらず黙々と働いた。働き始めて6年たち、萌さんは清掃の仕事を辞めることに決めた。萌さんは「飽きたから」と言ったが、よく理由を聞けば、衝動的に辞めたわけではないようだった