<恥じるな 生きてる奴が勝ちなんだ 機会を見誤るんじゃない>(宇髄天元/9巻・第75話「それぞれの思い」)

 命を軽く扱わねばならなかった自分たち「忍」に、宇髄天元は「生きる」ことの意味を与えようとした。宇髄が「派手に」戦うことは、誰かのために、ひっそりと命を落とす仲間の「生」に光をあてることを意味する。仲間を「戦いの闇」から救い出すために、宇髄は誰よりも派手でなくてはならなかった。

 鬼殺隊であることは、忍同様、命を捨てる覚悟を持つこと。しかし、宇髄は「生きるために戦う」必要性を唱えた「柱」だった。愛する者の命を優先したいという「心」を殺すことは、真の強さにはつながらない。己の苦難に満ちた半生も、自分が乗り越えて来なければならなかった数々の「死」も、別離の悲しみも飲み込んで、宇髄天元は人を「生かす」ために、ド派手に戦う。宇髄の戦いは、それを見るすべての者たちに、生きることの尊さを思い出させたのだった。

◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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