<俺の手の平から 今までどれだけの命が零れた(こぼれた)と思ってんだ>(宇髄天元/10巻・第87話「集結」)
そして、宇髄は誰にも聞かれないように、「そう 俺は煉獄のようにはできねぇ」と心の中でひっそりとつぶやいた。
■宇髄が夢見た「生き方」
宇髄が「煉獄のようにできない」と言ったのは、「遊郭の鬼」の攻撃で、一般人に何人も被害者が出た後のことだった。無限列車の全乗客200名を守りきった煉獄のことを、宇髄は思い出したのであろう。
煉獄家は、代々鬼狩りを輩出する名門。そして宇髄は、時の権力者たちの「影」として戦う「忍」の出身だった。いずれも戦闘のスペシャリストとして、著名な血統を出自に持つ。しかし、煉獄家とは異なり、宇髄家の者たちは、没落しつつある「忍」として、誉れにならないような戦いに身を投じていた。やがて宇髄は、自分の「家」のあり方に疑問に感じ、親兄弟とも決別した。
自分はちがう、煉獄とはちがう。自分の技量や戦闘術を「元忍の宇髄天元様だ」と誇りながらも、自分の半生に苦しむ宇髄。彼の人生への惑いが「俺は煉獄のようにはできねぇ」というセリフに集約される。
■煉獄杏寿郎に似た宇髄天元
「遊郭の鬼」からダメージを負わされた炭治郎は、「上弦の鬼」の強さを前に、手元が震える。圧倒的に不利な状況に絶望する炭治郎の背後に、宇髄が立つ。
<人間様を舐めんじゃねぇ!!こいつらは3人共 優秀な俺の“継子”だ>(宇髄天元/10巻・第88話「倒し方」)
弱い自分たちを「優秀な継子だ」と呼び、敵に「負けないこと」を宣言する宇髄の姿を見た炭治郎は、戦闘中であるにもかかわらず泣きそうになる。傷つきながらも、心が折れない宇髄の姿は、煉獄杏寿郎のそれと重なった。煉獄喪失の悲しみを隠しきれない炭治郎であったが、心を燃やしながら宇髄との共闘に力を尽くす。今度こそは、か弱き者を救おうとする「柱」を死なせないために。
■誰にも似ていない宇髄
鬼殺隊の隊士はたくさんの仲間の死体を横目に、命を惜しまずに戦う。そんな中で、宇髄はこんな言葉を口にする。