これは単に、顔と、声・体つき・内面のギャップを示しているのではない。その顔立ちは異常なほどかわいらしく、美形ぞろいの『鬼滅の刃』の登場人物の中でも、突出している。この特徴ある、伊之助の「顔」は、彼の過去をひもとくための「鍵」になっていく。

■「猪」に育てられた少年

 伊之助の出生には謎があり、赤ん坊だった伊之助を猪が育てた。そのため、伊之助は限られた人間としか接触してこなかった。伊之助が育った山近くに住む「たかはる」という青年とその祖父が、伊之助に言葉を教えたという経緯だけが語られている。

 その時点で、伊之助はすでに猪面をつけている。このお面は、「母がわり」だった猪の皮でできていることから、物心ついてすぐに、母がわりの猪を亡くしていることがわかる。「形見の品」は、その猪の亡きがらからできたもの。伊之助がこの母がわりの猪にどれくらいの執着と愛情があったのかは想像に難くない。

 その後、伊之助は鬼殺隊に入隊する。戦闘の合間、鬼殺隊を支える「藤の花の家紋」の家で、とある年配の女性に、身の回りの世話をしてもらう。清潔な衣服と寝床、おいしい食事も初めての経験だったが、優しく話しかけられながら世話をされることは、伊之助にとって、心が「ほわほわ」する出来事だった。他人の優しさを知ることで、伊之助はこれまでの自分の孤独を、あらためて知ることになる。これ以降、伊之助は「家族」の存在、母性的な存在を無意識のうちに追い求めるようになる。

■胡蝶しのぶの「優しさ」

<俺には母親の記憶なんてねぇ 記憶がねぇなら いないのと一緒だ>(嘴平伊之助/19巻・第163話「心あふれる」)

 こんなふうに強がっていた伊之助だが、「蟲柱」の胡蝶しのぶにだけは特別な感情を抱く。2人のはじめての出会いは、伊之助が「那田蜘蛛山」の戦いで負傷したとき。クモ型の鬼との戦闘で大けがをした伊之助を、しのぶが自宅(蝶屋敷)で手当てしたことが最初だった。

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母の「かたき」の鬼・童磨