部屋には、こんな内容のメモが残されていたという。

「最後におなかいっぱい食べさせられなくて、ごめんね」

 5月24日、大阪市北区のマンションの一室で、井上充代さん(28)と息子の瑠海(るい)ちゃん(3)が亡くなっているのが発見された。検視結果などによると、今年2月には死亡していたとみられる。部屋の中には食べ物がなく、食塩があるだけで、ガスなどが止められていたことから餓死の可能性もあるとみられている。同じマンションの住民は言う。

「普段から物音もなく静かでした。少し前からすごいハエと異臭。でも、まさか、人が死んでいるなんて」

 井上さんは広島県出身。5、6年前に結婚。その後、瑠海ちゃんを出産し、大阪府守口市で暮らしていた。近所の住民によれば、井上さんはレスリングの伊調馨選手に、夫はテニスの錦織圭選手に似ていて、「仲のよさそうな夫婦で、瑠海ちゃんをすごくかわいがっていた。夏はよく花火や水遊びをしていたよ」という。夫のDV(家庭内暴力)が原因で、井上さんが身を隠したという報道もあったが、この住民は、「けんかする声などまったく聞いたことがない」と、否定する。

 ただ、守口市に住んで1年ほどで夫の姿が急に見えなくなった。井上さんは瑠海ちゃんを託児所に預け、大阪・北新地の飲食店で働き始めた。その頃から金銭に困窮し、急激にやせ始めた。店の元同僚は、「だんなさんが四国のパチンコ店で事件を起こし、逮捕されたと聞いた。『収入がなく生活が苦しい』とつらそうにしていた」と話す。夫の姿が見えなくなったのはこの事件のせいと思われる。また前出の近所の住民はこう言う。

 
「だんながいないので生活がきついとこぼしていました。市役所や民生委員に相談したらと言うと、『大丈夫です』と話していました」

 井上さんは守口市役所に一度、相談に訪れている。市役所の担当者も自宅を訪問。しかし井上さんは生活保護の申請をしなかった。昨年10月、夫が突然、自宅に帰ってきた。すると翌日、今度は井上さんが瑠海ちゃんを連れて家を出た。

「そのあと、井上さんの実家から警察に連絡があったらしく、刑事さんが2度ほど自宅に来ていたのを見た。だんなさんも『連絡がとれない』と困惑していました」(前出の近所の住民)

 その約7カ月後、守口市の自宅から電車で20分ほどのマンションで、井上さんは変わり果てた姿で発見された。何があったのか。前出の元同僚はこう話す。

「井上さんを最後に見たのは去年の12月。接客は上手で、お客さんも結構ついて、月に30万~40万円の稼ぎがあった。でもちょっと変わっていて、12月も給料が出ているのに取りに来ない。急に引きこもったり、お金があるのに借金したり、理解しづらいところがあった。ただ稼ぎは十分あったし、あれくらい接客ができればどこでも通用する」

 最期をとげたマンションは、オーナーから無償で借りていたとみられている。

「井上さんは『最初はお金に困っていたが、もう大丈夫』とも話していた。だんなさんがいない間に、新しいボーイフレンドができたようなことも聞いた。だから、だんなさんに連絡先を知らせていなかったのかもしれない」(前出の元同僚)

 奇怪な事件の原因と経緯。謎は深まるばかりだ。

週刊朝日 2013年6月14日号