TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。村上春樹さんと山下洋輔さんについて。
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村上春樹さんはエッセイでもラジオでも、常々、僕の文章の先生はジャズだと明言している。大事なのは「リズムとハーモニー、そしてインプロビゼーション」の三つだと。
週刊朝日のインタビューでも「メロディー、リズム、ハーモニー、トーン……など、音楽を形成するすべてが僕の文章になにかをもたらしていることは、間違いありません」と答えている(2021年2月12日号)。
そんな春樹さんと、自由奔放にピアノに向かうジャズ・ピアニストの姿が重なって見えるのは僕だけだろうか。
春樹さんと一緒に山下洋輔さんのライブに行った。山下さんは先日の『MURAKAMI JAM~いけないボサノヴァ Blame it on the Bossa Nova~』にも出ていただいた縁がある。
春樹さんの短編『4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて』で描かれているような晴れやかな春の日だった。
「山下さんはほんとに文章が上手いんだ」と春樹さんが言い、僕は「リズムとハーモニー、そしてインプロビゼーション」の三カ条を思い出した。
かつて山下さんは僕の勤めるラジオ局の常連で、ライブ番組ではフリージャズを縦横無尽に、大貫妙子さんの対談では軽妙なトークを存分に披露してくれた(ター坊こと、大貫妙子さんと山下さんは一頃同じ事務所だった!)。
僕より二回り上の先輩プロデューサーは60年代から山下さんの熱烈な「おっかけ」だった。
新宿ゴールデン街で何度当時の話を聴いたかしれない。60年代後半、東京の街は機動隊と反戦の学生が双方ガチのぶつかり合い。手ぬぐいマスクの学生たちは警察車両に火を放ち、舗道の敷石をはがして投げつける。応戦するのは機動隊。