プロの演奏や歌をコンサートで聴くとき、家でスピーカーを通して聴くよりも感動することはないでしょうか。オックスフォード大、マックスプランク研究所、ケンブリッジ大をへて、現在、東大ニューロインテリジェンス国際研究機構で研究を続ける脳神経科学者の大黒達也氏。最新刊『AI時代に自分の才能を伸ばすということ』(朝日新聞出版)では、大黒氏の研究内容である「統計学習」を中心に、AI時代こそ、人間的な「創造性」「個性」「芸術」に着目される理由、伸ばし方が紹介されています。
この記事では、『AI時代に自分の才能を伸ばすということ』から特別に抜粋し「なぜ、スピーカーを通して聞く音楽より、コンサートの音楽のほうが感動するのか」という疑問を糸口として、「人は何に感動するのか」「オリジナリティの高さ」などついてお届けします。
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脳神経科学、心理学、人工知能(AI)を用いて音楽的な芸術性について研究しています大黒達也と申します。特に、「人間の個性や創造性、才能、芸術などが、どこから生まれて、そしてどのようにして発達・成長していくのか」ということに興味をもち、研究しています。
■人は「微妙なズレ」に感動する
例えば、プロの演奏や歌をコンサートで聴くとき、家でスピーカーを通して聴くよりも感動することはないでしょうか。
あるいは、ピアニストが正確に譜面どおりにピアノを弾くピアノの音よりも、タメをつくって情感あふれるように弾く・ピアノの音に感動するということはありませんか。
これには、私が研究している「不確実性のゆらぎ」が関係しています。
ここで、人がどういうものに感動するのかを考えてみたいと思います。
基本的に人間の脳は、常に新しいものに触れ続けると、その情報を処理することにエネルギーをたくさん使ってしまうため疲れてしまいます。
一方、常に当たり前すぎるものに触れ続けても脳は飽きてしまい、感動が生まれません。つまり、あまりにも予測からズレすぎず、かといって当たり前すぎない「微妙なズレ」に、人はなんともいえない感動を覚えると考えられています。
例えば、勉強などでもそうでしょう。あまりにもわからない難しいものは勉強のモチベーションが上がりませんし、大学受験生が足し算をたくさん解くような課題を与えられてもやる気が起きません。
ある程度わかるけれども、少しわかりづらい「予測や経験からの微妙なズレ」のある問題に取り組むほうが、知的好奇心がくすぐられて感動や喜びがえられます。音楽もこれと同じことがいえるのです。