■「予測と違った現象=悪い」ではない
一方で、(3)の「思いがけずプレゼントをもらって嬉しかった」のように、予測と違った現象が、必ずしも悪いわけではありません。予測とはずれて、ガッカリすることもあれば喜ぶこともあります。
いずれにしても、「統計学習による予測と異なる出来事が起こると、知識がアップデートされ記憶として残りやすい」というだけのことです。
ただ、(3)の現象も、今日、「思いがけずプレゼントをもらって嬉しかった」と鮮明に記憶していても、今後毎日プレゼントをもらうようになれば、「プレゼントをもらう」確率は上がります。
そして「プレゼントをもらう」現象は、「予測どおり」のことになり、プレゼントをもらっても記憶に残らなくなってきます。そしてある日突然プレゼントをもらわないような日があれば、今度は「プレゼントをもらわない」ことに驚いてしまうのです。
このように「統計学習」とは、身のまわりのあらゆる現象の確率を脳が自動計算し、それに基づいて将来を予測することです。
そして予測と違うことが起こると知識をアップデートすることといえます。 (了)
【プロフィール】
大黒達也(だいこく・たつや)
東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構 特任助教。医学博士。1986年青森県八戸市生まれ。オックスフォード大学、マックスプランク研究所(独)、ケンブリッジ大学などを経て、現職。専門は音楽の脳神経科学。現在は、神経生理データから脳の創造性をモデル化し、創造性の起源とその発達的過程を探る。また、それを基に新たな音楽理論を構築し、現代音楽の制作にも取り組む。著書に『芸術的創造は脳のどこから産まれるか?』(光文社新書)がある。