「統計学習」とは、シンプルにいえば、私たちの身のまわりで起こるさまざまな現象・事柄の「確率」を自動的に計算し、整理する脳の働き・システムのことです。

 人間は、この脳の統計学習により、不安定で不確実な現象・事柄の確率を計算し、身のまわりの環境の確率分布をなるべく正確に把握しようとします。

 把握できれば、「次にどんなことがどのくらいの確率で起こりうるのか」を予測しやすくなるので、起こる確率の低い現象・事柄はスルーし、起こる確率の高い現象・事柄だけリスクととらえて、注意を向ければよくなります。

 すべての外界の現象・事柄にいちいち怖がらなくてもすむのです。

 結果、社会環境の中で危険を適切に察知しながら安心して生きていけるようになります。

 さらに、メリットは他にもあります。「脳のエネルギー効率の向上」です。

 統計学習により予測精度が上がると、身構えるべき現象・事柄にだけ脳のエネルギーを使い、それ以外はあまり気にしなくてよくなり、無駄なエネルギーを使わなくてすむのです。

 脳は基本的には「安心したい」「楽をしたい」臓器といえるでしょう。

■統計学習は、脳の普遍的なシステム

 この統計学習は、人間が生まれつきもっている脳の学習システムといわれています 。

 だから「学習」の文字がつきますが、学校などで行われる「学習」とは意味が異なります。

 学校などでの学習が「意識的」に行われるのに対して、「統計学習」は、「無意識」のうちに「自動的に、勝手に、脳が学ぶ」といった意味に近いものです。

 統計学習は、私たちが起きている間だけでなく寝ているときでさえも絶えず行っており、生まれてから死ぬまでずっと生涯行い続けているともいわれています。

 また、サルや鳥、齧歯(げっし)類(ラット等)などのあらゆる動物の脳にも統計学習システムが備わっていることがわかっています 。

 つまり統計学習は、生物が生まれながらに保有している「脳の最も普遍的な学習システム」ともいえるでしょう。

 また、統計学習は、「統計」というくらいなので、脳はなんらかの情報を統計的に学習します。

 これを聞くと、算数や数学の苦手な人は、「私は統計学習が苦手だ」と感じるかもしれません。

 しかし、脳の統計学習能力は、意識的に学習する学校の算数や数学の得意不得意とはほとんど関係がありません。また知能指数(IQ)とも独立した、脳の自動計算機能であることが知られています 。

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