ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「新しいエッセンス」を教示してくれる人たちについて。
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年齢を重ねると「新しい要素」を取り入れるキャパがなくなってくるものです。私もあらゆる面で情報処理能力が低下しているのを日々痛感します。若い頃のように「何にでも飛びついてみる精神」では身体が保(も)ちません。友人も食べ物も語学も音楽もファッションも、よほどのきっかけがない限り、これ以上新しいエッセンスは「要らない」というスタンスです。
幸運にも、私は子供の頃から実に様々な経験をさせてもらってきました。好奇心もそれなりに旺盛でしたし、好きなものへの執着も人一倍強かったと思います。結果、私のメモリーキャパ(俗に言う引き出し)は30歳になる頃には満杯になっていました。そもそも私の人生の目的は、主に「子供の頃の妄想を実現させる」「子供の頃に叶わなかった願望の仇を取る」のふたつであり、実際に私の仕事のほとんどは「妄想と願望と趣味」を形にしたものです。これも非常にラッキーなことだと感謝する一方で、それらを生業にしてしまった自分にも感心します。
こんなことを言うと、「じゃあ、最近のアイドルには興味ないんですか?」などと頭の悪い質問をしてくる人がいますが、子供時代にアイドル好きの人格が形成されていた以上、最近のアイドルは「新しい要素」ではないのです。例えば、少年隊やKing&Princeは「ジャニーズ」というフォルダ(引き出し)に、伊藤みどりや羽生結弦は「フィギュアスケート」のフォルダに分類されているように。しかし、「ジビエ料理」「人狼ゲーム」「藤井風」といったまったくの未体験要素を、今から能動的に取り入れ学習するキャパは残っていません。