作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、「全裸監督」について。村西とおる氏と、「紀州のドン・ファン」とが重なって見えたという。
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Netflixが「全裸監督 シーズン2」の2021年の配信を発表し、「お待たせしました。お待たせしすぎたかもしれません。もう少々、もう少々だけ、お待ちください」とTwitterでコメントした日、私の周りのフェミニスト数人がNetflixを解約した。私もそうしたいが、見たい海外ドラマが多すぎて解約できない。悔しいです。
AV監督村西とおる氏の半生を描く「全裸監督 シーズン1」は、日本制作ドラマとして異例の大ヒットだった。予告の段階で少し嫌な予感はしていたのだけれど、放映前にPR会社から「『全裸監督』を見て、黒木香が成し遂げたことを語ってほしい」という依頼が来たので、一応シーズン1は全部見た。正直、ドラマとしてよく出来ていると思った。刺激的であるし、テンポもよく、なにより俳優の演技は素晴らしい……が、回を重ねるごとに不快感が深まり、出ている俳優を嫌いになりそうになるほどつらくなるのは、「全裸監督」が完全なフィクションではないからだ。
「全裸監督」では実在の人物が多数登場する。なかでも主人公の2人は実在の名前で演じられる。村西とおると黒木香だ。黒木香のデビュー作(というか、この人はほぼこの一作しかAV出演していない)は、それまでの“セックスを表現する”AVとは違っていた。監督自身がカメラ片手に性交し、時に女性の顔をたたき、殴られた女の肌は赤くなり、激しさを増す痛みと快感に女は獣のように吠え、最後は貝の笛を吹いて快感を表現するという……暴力と滑稽と猥雑が混在したものだった。「全裸監督」では、この“作品”を忠実に再現する。多くの人の運命を劇的に変える奇跡の一瞬のように、大切なシーンとして描かれる。
黒木香さんは1994年を境にメディアの前から消えている。その年の5月にホテルの2階から転落したことが大きく報じられたのが最後だった。事故の真相は分からないが、事故直前の黒木香にインタビューをしているノンフィクションライターの故・井田真木子さんの『旬の自画像』(文藝春秋)によれば、黒木さんがかなり追い詰められていたことがわかる。既に村西とおる氏とは別の道を歩んでいたが、村西から受けた暴力や暴言について詳細に語っている。