夏川さんはいまも患者の治療にあたる。感染者数が増えるなか、病院では「言語に絶する」状況に直面しているという。
「第3波で社会が大変な目に遭ったという教訓をもとに、社会全体で対策ができてマシになったかというと、そのような感覚は残念ながらないです。実際、感染者数は増えています。
旅行者も依然として多いです。ゴールデンウィーク中も県外ナンバーの車がよく見られましたし、山登りにきた関東圏の方が肺炎になって救急車で運ばれてくることもありました。もちろん普段よりもこうした人は少ないのだと思いますが、緊急事態宣言中の地域から旅行に来て、具合を悪くした人に、数十人もの医療関係者が防護服で対応に当たらなければならない状況は、言語に絶するものがあります。
なかなか穏やかな気持ちではいられないですが、それを非難したり、攻撃したりすることでは事態がよくならないことを我々はよく知っています。ただ医者も人間ですから、その日の夜はみんなで愚痴をこぼすこともありますが」
医療者たちは精神的にも体力的にも限界に達していると強調する。
「感染症指定医療機関は昨年2月から常に最前線で戦っています。発熱した患者さんがいたらまずここに来るし、入院調整もここでする。あくまでもまわりの協力機関は、協力の範囲を超えてこない。もう1年半も戦い続けています。スタッフたちも県外への帰省をあきらめ、感染の恐怖におびえながら働いている。それはもう別格の疲労感があります。
少し大きなことをいえば、働き続けてきた病院をいったん休ませなければならない時期が来ていると思っています。私の知る限り、そうしたことができている病院はまだありません。しかし、この状態をさらに1年続けられるかといえば、正直無理だと思います。どこかで崩壊して、立ち直れないほどのクラスターが起こるということを、最も恐れています」