まわりの医療者からの反響はどうだったのか。

「『何年も前の懐かしい話を思い出すような感覚だった』という意見をもらいました。事態は日に日に変わっていますし、治療に関する指針も日ごとに変化していきます。第3波はわずか数か月前のことですが、ずいぶん時間が経ったような、不思議な感覚があります」

 夏川さんが懸念するのは、医療者のなかでの「分断」だという。

「コロナ診療に携わる医療者は、自分たちのつらさが伝わるという意味でこの本の出版をありがたく思っているかもしれません。一方で、コロナ診療に携わっていない医療者がこの本をどう思うか。

 コロナ診療に限っては、医療者同士の間でも意識が異なるというのが、ひとつの特徴です。私のいる病院は、1年以上の消耗戦の中で、ギリギリの状態を必死に維持しています。一方で、少し離れたところにある大きな病院ではコロナ患者を断っており、一般患者も減っているので穏やかな空気が流れている。こうしたギャップは、意識の差になって表れます。それはなかなか一言では言い表せない差ですね」

 小説は、第3波が小康状態に入った1月末で終わっている。しかしコロナ感染は現在、第4波の局面を迎えている。作品中に描かれていたひっ迫状況は、いまどうなっているのか。

「満足するような変化には至っていません。けれども、全く変わっていないわけでもありません。第3波のときにはほとんど患者さんを断っていた病院が、少しずつ患者さんを受け入れ始めています。

 もちろん、設備や人員の問題もありますから、あらゆる病院がコロナ診療をするべきだとは思いません。ただ、これだけ患者さんが増えてきた中で、なおも断り続けるのはあまりバランスの取れた判断ではないということに、医療機関の側も気づき始めているのではないでしょうか。感染が収まらないいま、多くの医療機関がコロナ診療のノウハウを身につけていくという意味でも、これは重要な変化だと思います。

 私の病院はもともと一桁の病床しかなかった病院ですが、第3波のときにあっというまに満床になって修羅場を迎えました。患者さんが増加するにつれて病床を拡張していくのは危険なことです。ほかの受け入れ先がない状態で無理やり患者さんを入院させれば、トラブルのもとになります。そのためいまは先手を打って、早めに病床数を増やしています。こうしたことが積み重ねられていけば、もう少し医療の状況は改善できるのではという希望をもっています」

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