「新型コロナの重症患者が世界的に急増し、製薬会社から鎮静剤や麻酔薬の出荷調整の通知が入っています。人工呼吸器があっても患者につなげられない事態も想定されます。これはもう、災害時と同じです。被災地に外国人を招くのはスポーツマンシップでも、おもてなしでもありません」

 国内唯一の全国的な勤務医の労働組合「全国医師ユニオン」が結成されたのは2009年。経営者や病院長でない勤務医であれば誰でも入会可能という。代表の植山さんも埼玉県内の診療所の副所長を務める勤務医だ。結成当初は植山さんら8人で立ち上げた組合の会員数は現在130人。活動目的は日本の医師の過重な労働環境の改善だ。植山さんは言う。

「日本はOECD(経済協力開発機構)の中で、人口10万人当たりの医学部卒業生数が最低水準です。医療費抑制のため、できる限り受診の機会を抑制したい国の意向が反映されています。このため勤務医の4割は過労死ラインを超え、1割は過労死ラインの2倍の時間外労働を担わされています。日本外科学会の調査によると、『医療事故・インシデント(ヒヤリ・ハット)』について何が原因と考えるかとの質問に、『過労・多忙』が81.3%と断然トップです。しかし、医師の働き方改革の検討会では、安全性の視点からの議論はほとんど行われず、政策には全く反映されていません。医師不足の日本では平時でも過重労働を担わされているところに、新型ウイルス対応が加わった形なのです」

■国民への対応と矛盾

 医療従事者の働き方改革を置き去りに、菅首相は五輪開催について「国民の命と健康を守り、安全安心な大会が実現できるように全力を尽くす」とのフレーズを繰り返している。植山さんは「なぜ簡単に、安心安全と言えるのか」と憤りを募らせる。

「国民には不要不急の都道府県間の移動や3密を控えるよう呼び掛けているなかで、世界中から人を招くのは明らかな矛盾です。大きな津波が来ているのに『2階に逃げれば大丈夫』と言っているような無責任さを感じます。かといって、例えばインドの変異株を恐れて、インド選手団だけ入国を拒むこともできません。そんなことをすれば、五輪ではなくなってしまいます。五輪は『世界に開かれた大会』であるがゆえに、コロナ禍ではなおさら危険なのです」

(編集部・渡辺豪)

AERA 2021年5月31日号

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