一方、C受刑者は「自分は井澤さんと知り合いで、殺人を命じるわけがない。死体遺棄で起訴されるのはわかるが、殺人はやっていない」と主張し、対立した。だが、3人での殺人と認定され、C受刑者が主犯で懲役23年、A受刑者、B受刑者は懲役16年の判決が確定していた。
「死体なき殺人事件」なので、裁判のポイントは殺人があったのかどうかに絞られた。殺人については、A受刑者らが認め、詳細を供述した。
だが、死体遺棄現場にはA受刑者は同行せず、暴力団員の2人が実行し、琵琶湖の「都市伝説」の場所に行くため、漁船をチャーターしていたことが、裁判で明かされた。
そして沈める前に、井澤さんの死体に潜水服を着せて、刃物で何か所も突き刺したという。そして死体をスーツケースに入れて、重しのチェーンで巻いて「都市伝説」の場所に遺棄した。
「そこは琵琶湖で最も深い、水深300mともいわれヘドロが堆積しているとされる場所だ。それゆえ死体を遺棄すると浮いてこない。これまで取り調べた、暴力団員も『あそこに沈めたら絶対にわからない』と言い、暴力団の世界では有名な場所だった。一般的に遺棄された死体は、いずれ腐敗して浮上する。だが、刺し傷をつけ、潜水服を着せることでガスが抜けて、浮かんでこないそうだ」(当時の捜査関係者)
山口組元顧問弁護士だった山之内幸夫氏もこう振り返る。
「ヤクザから死体を隠す琵琶湖の有名な場所は何度も聞いたことがありました。都市伝説やろな、と思っていたのですが、本当にそういう場所があり、遺棄して14年間も沈んでいたと知り、びっくりしました」
死体は当時、発見されなかったが、チャーターした漁船の関係者がその様子を詳細に裁判で証言。それが容疑の認定の大きなポイントとなった。3人の受刑者を担当した弁護士の一人を取材した。
「死体なき殺人ですから大変な弁護活動でした。彼らは死体については、まず見つからないでしょうと言っていた。当時、別の事件で弁護していた暴力団に参考のため、琵琶湖の都市伝説のことを聞くと、『有名な場所で、あそこにはたくさんの死体が沈んでいると思う』と話していた。確か、検察側が琵琶湖は古代湖でフォッサマグナ(大きな溝)と関係し、湖底が複雑、と成り立ちまでひも解いて、死体が発見できない理由を説明していた記憶がある。被害者の井澤さんが発見されたとニュースで報じられ、3人とも今頃、刑務所でびっくりしているのではないか。改めてご冥福をお祈りするように刑務所に手紙を書こうと思う」
井澤さんは近く家族のもとに返されるという。合掌。
(AERAdot.編集部 今西憲之)