富士山 (c)朝日新聞社 @@写禁
富士山 (c)朝日新聞社 @@写禁

 日本のシンボル「富士山」が、6月16日からカンボジア・プノンペンで始まる世界遺産委員会で、日本で13番目の世界文化遺産に登録される見通しだ。

 そもそも、「なんで今まで世界遺産ではなかったの?」という素朴な疑問がわく。すでに世界遺産となったどの文化財と比べても、そのメジャー度、有名度、それに「日本度」は圧倒的だからだ。

「ただ『美しい』とか『芸術的だ』というだけでは、世界文化遺産にはなれません」と話すのは、文化庁の榎本剛・記念物課課長。富士山には、苦節20年の物語があるのだ。

 ひとまず、「世界遺産」とは何かという話から始めよう。1972年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)で世界遺産条約が採択されたのが始まりで、将来に残したい貴重な遺跡や環境を、人類全体の遺産として保護することが目的だ。世界遺産には、遺跡や建造物が対象の「文化遺産」、貴重な環境が対象の「自然遺産」、両方の性格を持つ「複合遺産」の三つのカテゴリーがある。

 登録のためには国内の暫定リストに載る必要があり、国がその中からユネスコに推薦する。最終的には年1回開かれる世界遺産委員会が決定する。日本が条約を批准したのは採択から20年後の92年。この年、文化庁は世界最古の木造建築「法隆寺」など12カ所が載った暫定リストを作成した。この最初の最初で富士山はつまずく。選ばれたのは人手の入っていない原生状態の地域。年間30万人が訪れる「観光地」富士山はこの暫定リスト入りしなかった。

 それでも「富士山」は「自然遺産」にこだわった。90年代初め、静岡・山梨両県の自然保護グループを中心に運動開始。約240万人の署名が集まった。ところが、2003年、環境省などがつくる検討会は、自然遺産の候補地から富士山を外してしまう。「最大の理由は、あまりに汚すぎたから」(関係者)。当時、登山道は登山客が捨てるごみだらけ。さらに山小屋から流れ出るトイレットペーパーが「白い川」と呼ばれる惨状だった。

 だが、地元の静岡・山梨両県はあきらめなかった。文化庁が06年、「文化遺産」を公募した際に「文化遺産」に方針変更して再び立候補。バイオトイレの設置や清掃活動の活発化で「汚名」もすすぎ、今回「公募第一号」としての登録にたどりついたのだ。 

週刊朝日 2013年6月28日号