ところがこの補聴器が難物なのですね。必要以上に周囲の音をひろってしまうのです。個室で会食をすると、ふすま一枚隔てた隣の話し声ばかり聞こえて、肝心の相手の話が聞き取りにくかったりします。講演会場でフロアから質問されると、まずわかりません。診療のときは、聴診器を使うので、補聴器をはずします。すると、患者さんの話を聞き取るのに、看護師さんの助けを借りることになります。
しかし、私はこういう不具合を嫌ってはいません。むしろ、日々、様々に表れる不具合を「こんなことが起きるのか」と楽しんでいます。
治すことが難しい不具合とは親しく付き合うことが必要なのです。そのコツは人との付き合いと同じです。まずは相手のことをよく知ること。次に相手と積極的に交流を図ること。そして、そのやりとりを楽しむことです。不具合に対して自分流に様々なアプローチをして「今日はうまくいった」「いや、だめだった」と一喜一憂するのも悪くないではないですか。そのうち不具合が、自分にとってかけがえのない“友人”になってきます。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2021年6月4日号