映画「明日の食卓」は、椰月美智子の同名小説を原作にした、同じ名前の10歳の息子を持つ3人の母親たちの物語だ。母親の日常と苦労をリアルに捉え、共感と戦慄を呼ぶ。AERA 2021年6月7日号に掲載された記事を紹介する。
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――映画「明日の食卓」で3人が演じたのは住む場所も境遇も違う3人の母親。2児の母でフリーライターの留美子(菅野美穂)、シングルマザーの加奈(高畑充希)、専業主婦のあすみ(尾野真千子)だ。作中に共演シーンはなく、撮影はパートごとに行われた。
尾野真千子(以下、尾野):みなさんのパートを観て、あらためて内容が何十倍もの凄さで伝わってきました。
高畑充希(以下、高畑):私はまさに加奈が暮らしている大阪の町工場のあるような町で育ったんです。シングルマザーもたくさんいたので、幼い頃の記憶に助けられました。
菅野美穂(以下、菅野):私は2人の子どもがいるので、台本と小説を読んで他人事と思えなかった。観ていて自分がえぐられるようでもあったけれど、後には不思議な清涼感も残るんですよね。子育てをがんばればがんばるほど孤独になっていく。そういう人たちに、「あなただけじゃないよ」と励ましのメッセージを届けることもできると感じました。
尾野:私、菅野さんが実生活で母親になられたことで、演技がどう変化するのかな?と興味がありました。自分も参考にしたいから。
■必ずしもマッチしない
菅野:それがね、あまり関係ないみたい。
尾野・高畑:そうなんですか?
菅野:日常でこんなに大変な思いをしているから、ちょっとは演技に還ってきてほしい!と思うんですけど(笑)。具体的な子育て中の「あるある」はあるけれど、それは役の状況と必ずしもマッチしない。子どもは一人一人違うし、お母さんも全然違う。カメラの前で演じることは、本当に子どもがいるかどうかは関係ないんだなとすごく思いました。
――3人が演じる母親に共通するのは、「ワンオペ育児」のしんどさだ。そのなかで、どこかの家庭に悲劇が起こる。
菅野:この作品が生まれた原動力は、育児中の女性の「怒り」だと思うんです。ニュースで痛ましい事件を聞くとやりきれないけれど、対岸の話ではないんだと思います。我慢して、こらえている状況で気持ちが爆発してしまう。そういう瞬間ってあるんじゃないかと思います。特にいまはコロナ禍で前みたいに気軽に人と会って話せないから、ストレスを解消する手段がない。