「学びには三つの側面があります。『子どもたちが学びたいこと』、教員や大人が『学んでほしいこと』、そして『学ばなければならないこと』。この算数の授業は三つのバランスをうまく取ろうと教員も試行錯誤している象徴的な例です」(山口さん)

 現場の教員はどう考えているのか。杉並区立桃井第四小学校では、昨年度から自校の学びの構造転換に取り組む。教員の硲充史さんは2年生の担任。最近の授業で、ある工夫をした。「収穫できる植物を育てる」という単元。普通はミニトマトを苗から植えて育て、収穫し、持ち帰って食べる。硲さんは「子どもたちに種を選ばせる」ことから始めた。

 様々な野菜12種類の種を集め、子どもたちはまずそれを観察する。「これは○○っぽいな」「これはおっきい種だからおっきい葉っぱが出てくるんじゃないか」など想像を膨らませ、そこから自分で選び、育てる。硲さんは狙いをこう語る。

「ポイントは『子どもたちの探究心に火をつける』ことです。ゴールを教員が知っていてそれを与えるのではなく、最初はどう育っていくのか誰にもわからない。子どもたちもそのワクワク感があるからこそ、種1個を選ぶにもすごく集中して見ますし、教員も一緒に楽しみながら学びに向かうことができます」

■児童が求める探究型

 もちろん、すべての授業を探究型にできるわけではない。同校の研究主任・兼元由香利さんは、一斉授業の形で進めていく場合も現実的にはある、と話す。

「そんなとき、子どもたちが『前みたいに(探究型で)できないの?』とちょっと不満そうにしている、そんな姿が見られるようになりました。学びを自分で選ぶことが楽しいという感覚を彼らも感じていて、『もっとこうやって授業を豊かにしたい』という意識が芽生えている、そんな実感はあります」

 現場の教員たちがチャレンジできる背景には、地域の理解と協力もある。

 杉並区ではこの4月、全小中学校で「学校運営協議会」の設置が完了し、それを通じて保護者や地域の人が学校運営に参加できる「地域運営学校」になった。山口さんは言う。

「『地域が学校を応援してくれる』という態勢が順調に整い、先生たちがのびのびと新しい学びに挑戦していく大きな支えになっています。また、そんな先生方の変化を子どもたちは敏感に感じ取り、保護者や地域の人にも伝わることで、みなで同じ方向を向き、子どもたちを『後追いするように』支えていこう。そんな動きが生まれ始めていることは『学びの構造転換』を始めた大きな成果だと思います」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2021年6月21日号

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