「個別」「探究」「協同」。杉並区では2019年度から、この三つをキーワードに「学びの構造転換」という施策を始めた。「みなが同じ内容を同じペースで、同じ方法で学ぶ」という明治以来の発想から、「みな違う」に転換する試みだ。そもそも子どもたちは、得意も苦手も、興味や関心も何もかも、一人ひとり異なる。学年が進むにつれて学力格差の拡大を招いてきた従来の公教育の反省でもある。

 どんな成果があるのか。杉並区のある中学校では15、16年度の数学を「ペアを学習形態の核に」、つまり「協同」で取り組んだ。一斉授業から協同に転換しただけで「おおむね定着が見られる」という厚い中間層が生まれた。山口さんが指摘する。

「ただ、協同の必要感は、子どもによって異なります。ときには一人でやりたいこともあるでしょう。学びの構造転換では『協同することも、子どもたちの主体性に委ねていく』が基本です」

■三つのバランスを取る

 しかし、すべてを委ねればいいわけではない。

 その難しいバランスに挑戦している授業例がある。小学3年生の算数。単元のテーマは「10の位と1の位を分けて、掛け算を2回使えば、割り算ができる」というもの。「69÷3」が教科書例題だ。

 しかし、教員は数字を空欄で「□□÷□」とし、子どもが自分で課題を作るやり方にした。解決方法は一人でもグループでもいい。まさに「個別」で選び決め、必要なら「協同」し、「探究」する授業だ。ただし、すべてお任せではうまくいかない。「24÷3」などとすると、掛け算九九を1回使えば解けてしまう。山口さんは説明する。

「そこで、『割られる数は82以上』と先生が条件を付けてあげるんです。このことで、10の位と1の位を分けて掛け算九九を2回使う方法を、『おのずと』使う状況が設定されます」

 子どもによっては余りを知らないことで「82÷4」につまずき、「『8』だけは4で割れるのに」という位分けの気づきで問題を「84÷4」に修正、乗法九九の2回適用を自ら見いだすこともあるかもしれない。

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