<怒れ 許せないという 強く純粋な怒りは 手足を動かすための揺るぎない原動力になる>(冨岡義勇/1巻・第1話「残酷」)
善良で、か弱く、実直なだけの「優しい炭治郎」に、「強さ」を希求する必然が生まれた。『鬼滅の刃』では「怒り」が重要なキーワードになる。のちの苛烈な戦いで、炭治郎の「強さ」を下支えしたのは、義勇の存在と彼の言葉だった。
■「水の呼吸」の剣士たちの教え
義勇の導きによって、炭治郎は鬼殺隊への入隊を目指すことになる。炭治郎に剣術の基礎を指導したのは、義勇の師匠にあたる元水柱の鱗滝左近次(うろこだき・さこんじ)だった。鱗滝は炭治郎を鍛え上げるとともに、彼の心の中に残っている「甘さ」を指摘し、戦闘中の生死を分かつ判断力と覚悟を教えた。
<判断が遅い><今の質問に間髪入れずに答えられなかったのは何故か? お前の覚悟が甘いからだ>(鱗滝左近次/1巻・第3話「必ず戻る夜明けまでには」)
鬼殺隊の隊士たちは、そのほとんどが鬼に大切な人や仲間を殺されている。「鬼の妹を生かし続ける」という、特例中の特例を皆に納得させるためには、炭治郎の覚悟の強さが試される。そのことを鱗滝も義勇もわかっていた。厳しい入隊試験や、柱たちによる「柱合裁判」を炭治郎が切り抜けることができたのは、義勇、鱗滝、そして炭治郎の訓練を手伝った、亡き兄妹弟子たちの存在があったからだ。
さらに義勇と鱗滝は、炭治郎と禰豆子のために、こんな誓約を鬼殺隊にささげた。
<もしも 禰豆子が人に襲いかかった場合は 竈門炭治郎及び 鱗滝左近次 冨岡義勇が 腹を切ってお詫び致します>(鱗滝左近次/6巻・第46話「お館様」)
炭治郎は禰豆子のために自分の命を差し出す覚悟はできていた。しかし、妹を思う自分の行為が、「他者の命すら危うくする」ことを、この時やっと実感する。自分のために命をかけてくれた義勇と鱗滝の姿から、炭治郎は鬼殺隊剣士としての責任を知った。「人を喰った鬼は死なねばならない」という厳しいルールを炭治郎はその身に刻むことになる。