「『素人です。お手柔らかに』って感じでは迷惑になるんです。監督は(役者やスタッフにとって)親父のような存在にならないと」
『稲村ジェーン』は桑田さんが小学生だった頃の物語。自分より10歳ほど上の世代をどう見つめていたのかがわかる。ほろ苦さと悔恨。夢と挫折こそが人生の花を咲かせるとこの映画は示している。
花といえば、ラジオ番組『桑田佳祐のやさしい夜遊び』(TOKYO FM/JFN系全国38局ネット毎週土曜23:00~)を担当していたとき、桑田さんと鎌倉を散歩した。
ちょうど梅雨の季節だった。鎌倉の寺には色とりどりに雨傘が開き、それに応えるように色とりどりの花が咲いていた。
細かな雨に濡れる草花の名の一つひとつを桑田さんは丁寧に教えてくれた。
『真夏の果実』をこれまで一体どれくらい口ずさみ、歌ったことだろう。
この名曲を生んだ『稲村ジェーン』はTVやネット配信もほとんどなく、伝説となっていた。「暑かったけどヨゥ、短かったよナァ、夏」。そんな会話も語り継がれ……。
サザンオールスターズのデビューが6月25日。今月のそんな記念日に、僕たちはとっておきの夏の伝説を30年ぶりに味わうことになる。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
※週刊朝日 2021年7月2日号