「特別じゃない」「どこにもいるわ」と歌った少女はデビュー40周年を迎える。光と影が織りなす魅力の前に、言葉は無力だ。「聴く者・観る者の想像力を掻き立てる」唯一無二の歌手、中森明菜。
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東京・神田にある居酒屋「80年代酒場 部室」の狭い店内には、数々の80年代のレコードジャケットや貴重なポスターやグッズがズラリ。中森明菜のシングルもデビュー曲から発売順に壁面に飾られていて、一瞬で80年代にタイムスリップできる感覚になる。
店主の安野智彦さんは、40~50代の主な客層の中で、中森明菜は松田聖子と並ぶツートップの人気だという。
「やっぱりこの二人になるんですよね。リクエストも多いです。ちょっと不良っぽい子に憧れるところもあるのか、明菜ちゃんファンのお客さんは、おとなしそうな雰囲気の人が意外に多いです」
明菜のデビュー当時の貴重なサイン色紙や、表紙と巻頭を飾ったアイドル雑誌や水着ポスターなども飾られている。
「デビュー当時の顔に少し丸みのある明菜ちゃんが好き、忘れられないという人がすごく多いです」
明菜がデビューした1982年は、小泉今日子、シブがき隊、堀ちえみ、早見優、石川秀美……“花の82年組”と呼ばれる人気アイドルの大豊作の年だ。とはいえ「スローモーション」は、オリコンランキングで初登場58位と、華々しいデビューというわけではなかった。
続く2曲目の「少女A」がトップテン入りするヒット、一躍明菜は人気者の仲間入りを果たす。アイドル評論家の中森明夫さんは言う。
「不良的というか、背伸びソングでガラッとイメージを変え、一気にブレークしました」
その後、「セカンド・ラブ」「1/2の神話」と次々ヒット曲を連発。
「80年代のなかばには、スタッフワークと表現力もさらに進化して、井上陽水さんによる『飾りじゃないのよ涙は』、そして『ミ・アモーレ(Meu amor e…)』と『DESIRE─情熱─』で、百恵さんも聖子さんも受賞していないレコード大賞の大賞を2年連続で受賞し、名実ともにトップスターになりました」