電気は太陽光発電で。売電はせず2.7キロワットのパネルでつくった電気で自給自足する
(photo 朝日新聞社・斎藤健一郎)
電気は太陽光発電で。売電はせず2.7キロワットのパネルでつくった電気で自給自足する (photo 朝日新聞社・斎藤健一郎)

 2012年、東京に転勤したのを機に、ぼくは5アンペア生活をはじめた。電力会社の電気を極力使わず、どこまで生活を成り立たせることができるのか。エアコン、電子レンジ、炊飯器、大型テレビ、冷蔵庫……、これまで疑問にも感じていなかった電気使用を根本から見直した結果、1カ月の電気使用量は1キロワット時にまで減った。月の電気代は最も少ないときで170円になった。

 節電道を究め、代わりにベランダ発電など創エネを試みて、エネルギー自給の実現を夢見ていた。新たな生活スキルを得ていく日々は、エキサイティングで楽しかった。だが、結婚して子どもが生まれると、限界が露呈した。「エアコンなんてなくていい。よしずと扇風機があれば大丈夫」というぼくの常識は生まれたての小さな命の前であっさり崩れ去った。

リノベーション工事はオープンにして、SNSで参加を呼びかけた。のべ200人超が参加した(photo 朝日新聞社・斎藤健一郎)
リノベーション工事はオープンにして、SNSで参加を呼びかけた。のべ200人超が参加した(photo 朝日新聞社・斎藤健一郎)

■知ってほしいこと

 節電道に入って8年目の夏に、はじめてエアコンのリモコンのスイッチに手をかけた時のことは忘れない。「創エネとかいい気になっていたけれど、ベランダ発電ではエアコン一つ動かせない。結局、電力会社から電気を授かるしかないじゃないか」。失意とはうらはらに妻は「涼しいね。エアコン。最高だね」と喜んだ。

 節電の暮らしを続けても、原発は再稼働を続け、エネルギー自給は遠い未来にかすんでいる。行動を起こそう。状況を打開するためにしたのが、山梨で空き家を手に入れることだった。最初はソーラー発電などの設備を充実させて再エネ100%の暮らしをしたかった。だが、すぐにそれでは快適な暮らしは得られず、家そのものの性能を上げなければいけないとわかった。

 結局、個人的にはじめた家づくりは八ケ岳エコハウス「ほくほく」プロジェクトという名前がつき、腕利きの大工・建築家や再エネ分野のトップランナーをはじめ、のべ200人超が家づくりを体験する大きなものとなり、今夏には「日本エコハウス大賞NEXT創エネの家賞」という栄誉な賞を受賞した。

 今回の「ほくほく」紹介はここまで。最初だったのですこし格好つけたけれど、ここに至るまでには見通しの甘さや失敗多数、学びも喜びもたくさんあった。また紹介したい。脱炭素社会の実現は無理だという人もいる。電力逼迫・急騰で不安も広がっている。そんな世にあって、再エネ自給、CO2排出ゼロの気楽な家があり、その境地には比較的簡単にアクセスができることを知ってほしい。(朝日新聞記者・斎藤健一郎)

AERA 2022年12月12日号

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