「崔洋一、というすばらしい人がいたことを知らない方にも知ってほしい」。それが俳優の岸谷五朗さんが、11月27日に亡くなった映画監督、崔洋一さんの取材を引き受けてくれた理由だった。「月はどっちに出ている」(1993年)や「犬、走る DOG RACE」(1998年)などに出演し、“崔組”で育った岸谷さんに、崔監督の魅力を聞いた。
――崔さんの現場はどのようなものでしたか
色んなものがつまっていました。喜怒哀楽だけでは言い表せない人間臭さというか。“崔組”の現場にはいつもピリッとした空気があるんです。崔洋一という人間からあふれるエネルギーがとにかくすごくて、その力が響き渡っていましたね。
――現場での崔監督は?
最高の笑顔で「今日もやるぞ!」って笑っていて。……で気が付くと笑いが吠え声になっていて、それが次第に鉄拳になり、鉄拳制裁がビシバシと飛び交うという(笑)。物音がしたと思ってみるとスタッフが吹っ飛んでるとかもありましたね。でもそれが嫌じゃないんですよ。叩かれた方も気持ちよいというか(笑)。今じゃ考えられないですけどね。本当に優しさの鉄拳なんです。
――印象に残っている監督とのエピソードは?
「月は~」か「平成無責任一家 東京デラックス」(1995年)のときだったと思うのですが、怖い人たちに絡まれて撮影の邪魔をされたことがあったんです。せっかくいいシーンが撮れたのに何度も遮られて、いらだちが頂点に達したとき、崔さんと僕が同時に立ち上がったんです。崔さんは僕を見て、「五朗、おさえろ」、僕は崔さんを見て、「崔さん、おさえてください」って同時に言い合いました(笑)
崔さんは、制作陣や後輩を大切に思い、守ってくれる人で、男気がつまっているんです。だから、制作陣がいじめられていると立ち上がるんですよね。「そういうときは俺が出ていく」って。本当は監督が出ていくと一番まずいんですけど(笑)。そういう常識やルールに縛られない人で、そういう崔流の「吠え」がたまらなかったですね。