そう話すのは、「こころとからだ横浜クリニック」の院長・安藤泰善さん。先端恐怖症は針などの尖ったものに対して、強い恐怖を抱く。ひどい場合だと注射の前後で、動悸、息切れ、呼吸苦、発汗などのパニック症状が起きることもある。
「恐怖症は脳の扁桃体の異常な活性化による病気で、過去のトラウマが契機になって発症することがあります。先端恐怖症も過去のトラウマ体験が背景にあるかもしれません」
安藤さんによれば、過去に注射でひどい痛みがあったり、歯の治療の注射時に押さえつけられたりしたような経験がトラウマとなり、体が恐怖を覚えてしまうことがあるのだという。
「また迷走神経反射が起きる場合もあります。迷走神経というのは副交感神経なのですが、痛みやストレスにより過剰に活性化してしまうことがあります。その結果、血圧や脈が下がり、脳に血液が十分にいかず倒れてしまうこともあります」
■かかりつけ医に相談を
先端恐怖症の人が注射の映像を見ることで、トラウマ記憶が刺激され、さらに恐怖が強くなる可能性はあると、安藤さんは指摘する。そのような人たちがワクチンを打つ場合、緊張を和らげる方法はあるのか。
「近隣の心療内科に相談するといいかもしれません。抗不安薬の頓服で対応可能なこともあります。薬を持っているだけで安心して、実際薬を飲む必要がなくなる人も多いです。またTFTという思考場療法や、一定の訓練が必要ですが自律訓練法というリラクセーション法も効果があるといわれています。どうしても痛みが怖い人は、針を刺す部位にキシロカインゼリーを塗ると痛みが軽減できるので、かかりつけの先生に相談してもいいかもしれません」
とはいえ、注射は好きになれない。映像だけでも控えてほしいが……。(編集部・大川恵実)
※AERA 2021年7月12日号