相続のルールは、19~20年にかけて施行された民法改正でも大きく変わった。運用されてからまだ間もないが、その影響をみてみよう。
「『遺留分』を金銭で請求できるようになったのは大きな進歩」。相続に詳しい小堀球美子弁護士はこう話す。
相続人には最低限もらえる「遺留分」がある。基本的には、法定相続分の2分の1だ。たとえば亡くなった夫の遺産が評価額6千万円の自宅と預金2千万円の計8千万円で、これを妻と長男の2人が相続するケースで考えてみよう。
法定相続分は妻と長男がそれぞれ4千万円、遺留分はその半分の2千万円ずつとなる。
このとき、遺言書で「自宅の権利はすべて妻に、預金は1千万円ずつ妻と長男が分け合う」と書かれていた場合、長男は遺留分に1千万円届かない。もし長男が不足分を請求し、話し合いがまとまらないと、自宅の権利をいったん長男と妻の共有状態にせざるを得なくなる。
共有状態になると権利関係が複雑になり、自宅を処分しにくくなる。そこで19年7月から、不足額は最初からお金で請求できるようになった。例示したケースでは、長男から請求があった場合、妻は長男に遺産の預金や手持ちの資金から1千万円を渡せば、自宅は妻の名義に変えるだけですむ。
「お金で解決したほうが手続きの面でも感情の面でもスッキリします。遺留分をめぐって争うケースはこれから減っていくと考えています」(小堀弁護士)
また、相続コーディネーターで相続支援事業「夢相続」の曽根恵子代表は「法務局が自筆証書遺言を預かる制度が20年7月にできたことで、家庭裁判所が確認する『検認』の手続きはいらなくなり、遺言書を残すハードルは下がりました」と言う。
「検認の手続きには相続人全員の戸籍謄本をそろえたり、審査に時間がかかったり手間がかかります。自筆証書遺言は自宅で保管されることが多く、なくしたり、改ざんされたりする心配がありました。法務局に預けることで、こうした恐れはなくなります。加えて、遺言書を書いた人が亡くなると、指定した人に知らせが届く仕組みもあります。せっかく書いたのに、相続人が見つけられないケースも減りそうです」