土地があれば家を建てたいから、建築家に設計を依頼した。できあがったプランはコンクリート打ち放しの変電所のような外観で、屋内に煉瓦積みの壁があるという趣味性の強いものだった。わたしはいくつかの工務店で相見積もりをとった。総建築費は土地を含めて千六百万円。給料は手取り九万円で毎月の支払いは十万円を超えていたが、それでもやっていけたのはよめはんが働いてくれたからこそだった(ここはぜひ、よめはんに読んでもらいたい)。

 家が竣工して半年、シャレで申し込んでいた泉北ニュータウンの土地が当たった。坪二十万円は安い。わたしは駅近くの八十坪を申し込み、箕面の家を売りに出した。

 がしかし、変電所は売れなかった。半年後、泉北の土地は契約解除になった。わたしは懲りずに奈良・秋篠町の農家や香芝市の家を見に行ったが、資金繰りがうまくいかなかった。

 よめはんとわたしは八年間、箕面に住んで子育てをし、住宅供給公社の住宅分譲に補欠当選して羽曳野に引っ越した。羽曳野でもまた転居し、その家をいま塗装している。

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

週刊朝日  2021年7月23日号

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