今まで豪雨でも災害などなかったのに、原因は業者による盛り土の可能性が高いとか。だとすれば、法の目をかいくぐった人災であり、産業廃棄物が棄てられていたと聞くと、伊豆山を長年愛してきた身としては怒りに慄(ふる)えてしまう。

 地元の人々の悲しみは如何に? 死者は九人に増え、安否不明者は減ったが、七月八日現在で二十二人もいる。

 不明者の名前は公表され、テレビでも流れたが、NHKをはじめほとんどの局では、名前を記したテロップが流れるだけ。私も知人がいるので必死でその名を追った。

 その中で、一人一人の名前をMCが読み上げた番組があった。「news zero」の司会の有働由美子さんだった。私はそれがとても嬉しかった。目の悪い人にも彼女の声で情報が伝わる。

 そこには、被害者を数として捉えるか個人として捉えるかの差がある。大切な命は誰も同じ。「数」で災害の大きさを考えてはならない。

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『明日死んでもいいための44のレッスン』ほか多数

週刊朝日  2021年7月23日号

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