麻生発言について、メディアは厳しく批判・追及しなかった。さらに、日本経済新聞の4月の世論調査では、日本の台湾海峡の安定への関与について74%が「賛成」で反対はわずか13%。野党支持層でも「賛成」が77%だった。国民世論の前のめりの姿勢は驚くほどだ。
だが、こんな馬鹿げた話はない。日本が台湾防衛に兵を出しても、台湾は日本の尖閣諸島の対中防衛戦に兵を出すことはない。台湾自身が尖閣諸島の領有権を主張しているからだ。
一方で、台湾防衛のために日本が米軍と共に戦えば、中国のミサイルが、沖縄はもちろん本土の米軍や自衛隊の基地などに飛んで来て多くの死者が出る。台湾という異国の地の話だと安穏としていると、ある日、突然ミサイルが飛んで来てやっと危機に気付くのだ。
国民は、五輪の陰で進行する戦争への危機に早く気付き、秋の衆院選で、それに対してはっきりとノーを突き付けなければならない。
※週刊朝日 2021年7月30日号
■古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『官邸の暴走』(角川新書)など