本当に私のこの種の「うっかり」はマジで自分でも何とかしたい。いやトークはいいんです。読者の方のお顔を見て話すことはとても楽しい。問題はもちろん演奏で、最初は先生との連弾のみだったんだが「次からはソロも」と言われて断りきれず、猛練習に明け暮れ、それでも到底準備などしきれず本番はいつも緊張しすぎて「私は誰?」。崩壊寸前の演奏を息も絶え絶えに終えガックリ肩を落とす繰り返し。このトシになってこれほど過酷すぎる試練に見舞われるとは、100%自業自得とはいえ毎日が涙目である。
ただこの試練のせいで我が練習は間違いなくギアを上げた。次こそはあのような惨めな結果になるまいと頭を使い心を使い時間を使い、質量ともに一味も二味も違う練習ぶりとなったことは間違いない。結果、練習では間違いなく上手くなった気がする。しかしそれがなぜか本番では一切発揮されない。まさしく時間とエネルギーをただ取られているだけ。クレイジーそのものだが、上ばかり見ていた普通の会社員がいつの間にかこんなわけわからん地点に来てしまったことがある意味誇らしくもあったりする。
◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2022年12月5日号