

1971年4月3日。仮面ライダー1号・本郷猛を演じた藤岡弘、は、「仮面ライダー」第1話の放送を病院のベッドの上で見ていた。第9話・10話の撮影中に起こしたバイク転倒事故で再起不能といわれるほどの重傷を負ったためである。
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「見ている映像の中には敵と戦う雄姿が映っている。復帰不可能と言われ、痛みと絶望、悔しさと慟哭の中で、迷惑をかけた周囲への申し訳ない思い、そしてまた元通りに復帰できるのだろうかという不安につつまれてのスタートでした」
仮面ライダー1号は、ケガをする10話までは藤岡弘、自身がスーツを着てアクションを行った。当時はまだマスクの視界がかなり狭かったと語る。
「足元や横がほとんど見えないんです。それで起伏の多い場所でアクションしたり、余分な装備品でバランスが悪く不安定な二輪を操縦しなければならない。見えない部分は感覚でとらえる、そこは武道の経験が生かされたと思います」
第14話からは1号に代わり、一文字隼人が変身する仮面ライダー2号が登場。作品の人気がますます高まっていくなか、第40・41話に1号がゲスト出演(本格復帰は53話から)、「ダブルライダー」が誕生した瞬間だ。
「そのときは、手術で入れた金属の棒がまだ足に入っていて、『これがもし曲がって抜けなくなったら一生歩けなくなる』と宣告を受けてのぞんだ撮影でした」
撮影現場に行くと、事故を起こしたバイクが止められていた。
「いきなりこれに乗って走ってくれと(笑)。しかも岩だらけで道のない阿蘇山での撮影。どうやって走ったか記憶はありませんが、ウワーって拍手が起こったことは覚えています。動ぜず、揺るがず、ひるまず、あきらめず。不動の心をもって立ち向かえ。武道の精神、心構えがあったからこそ乗り越えられたと今となっては思います」
50年を「あっという間でした」と振り返る。
「仮面ライダーは、若い俳優たちが出演を目指してくれる作品になりました。街なかでは、今の日本を背負う世代の人たちが声をかけてくれ、僕ごときに感謝してくれる。小さい子供も顔を見て喜んでくれる。50周年の今も、こうして最新作に出演することもできます。全てに感謝ですね。無駄なことは一つもなかった。仮面ライダーを必要としてくれる人がいる限り、心臓が止まるまでがんばりたいなと思っております」
(本誌・太田サトル)
※週刊朝日 2021年7月30日号
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