すでにコロナ陽性が判明し、辞退が相次いでいることは冒頭でお話ししましたが、206の国と地域から選手や関係者が日本に集まることで心配されているのが、新型コロナウイルスのデルタ変異株の感染拡大です。北海道大学のIto氏らは、デルタ変異株の感染がアルファ株やその他を上回って優勢になるとの推定結果を公表し、世界中から人が行き交うことで、より感染しやすいデルタ株による新型コロナウイルス感染症が世界により一層広まる恐れがあると指摘しています。

 五輪開催中でも型コロナウイルスのワクチン接種は全国各地で進められていますが、例えば、福島県の相馬市では、7月16日時点で2回の接種を終えた16歳以上の市民が84.4%となりました。私も、相馬市のワクチン接種のお手伝いに従事しましたが、市長をはじめとする行政のリーダーシップや、医療機関や医療関係者の支援や連携には、驚くばかりでした。

 一方で、「接種したいが職域接種が中止になり、自治体での接種の予約も取れない」という声も聞かれています。自治体によって、接種率にも接種の進み具合も大きな差があるようです。日本における少なくとも1回接種した人は、7月20日時点で35.3%です。規制の撤廃を進めているアメリカやイギリスの接種率までたどり着くには、あと数カ月はかかりそうです。

 ワクチン接種が進む国では、規制の撤廃のほか、ワクチン接種が済んでいる人は隔離が不要になるなど、水際対策も日を追うごとに変わってきています。しかしながら、日本では、たとえワクチン接種が済んでいたとしても、14日間の隔離や公共交通機関が使えないなど、厳しい制限が残ったままです。

 そんな中で、「五輪特例」で入国してくるのがオリンピック選手や数万人のオリンピック関係者です。14日間の自主隔離などが免除されるほか、国内線や新幹線などを使って移動することもできるといいます。

 なぜ、五輪だけ特別に許可をするのでしょうか。ワクチン接種が済んでいて、出国や入国の際にPCR検査が陰性だったら隔離は免除されても、いいのではないでしょうか。五輪は開催し、五輪特例で入国や移動を許可する一方で、緊急事態宣言は発令し、外出は自粛しましょうと言い続けることに、疑問を抱かずにはいられません。そろそろ科学的な根拠に基づいて対策してほしいと切に願います。

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

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