守さんは言う。

「未和の死を当時の勤務制度や長時間労働だけのせいにするのではなく、証言を集めて問題点を洗い出し、きちんと検証してほしい。過労死は日本社会の根深い問題です。NHKには、自局で起きた事実を自戒や反省も込めて総括し、社会に伝えていく役割と責任があると思います」

 恵美子さんは、未和さんが他界してから体調を崩して「うつ病」と診断され、数年間、入退院を繰り返した。いまは過労死遺族として全国の高校や大学で過労死を防ぐための啓発授業をしている。「人前で話すことでなんとか気を紛らわしている状態です。自分たちのような遺族を増やさないためにも、これからも発信活動に力を注ぎたい」

 新型コロナウイルスの感染拡大で多くの企業がリモートワークを導入した。通勤や深夜残業が減り、労働環境は向上したようにも見える。しかし両親は在宅勤務が広がったことで「かえって実質的な労働時間は増えているのでは」と懸念する。守さんはこう話した。

「一般的に『社会人になった子の生活や仕事に、親が干渉する必要はない』と考えられがちです。でもそれは考え直したほうがよい。組織の中で起こる過労死は『働きすぎ』ではなく、『働かせすぎ』で起こる人災といっても過言ではありません。何かあったとき会社が子どもを守ってくれるとは限らない。煙たがられても、子どもの働く環境や職場の人間関係に注意を向けてほしい。わが子を会社や仕事から守る最後の砦(とりで)は親だと思っています」

 会社はわが子を守らない。そんな不信が蔓延(まんえん)する社会でいいのだろうか。未和さんの死は今も、重い問いを投げかけている。(本誌・松岡瑛理)

※「過労死110番」の問い合わせ先 03-3813-6999

週刊朝日  2021年8月6日号