多くの人はプラトンというと、ルネッサンスの巨匠ラファエロが「アテネの学堂」で描いた天を指さす白髪の老人(レオナルド・ダ・ヴィンチがモデル)を思い浮かべるが、実際には『テルマエ・ロマエ』で知られる漫画家ヤマザキマリさんの「オリンピア・キュクロス」に登場する筋骨隆々たるアスリートだった可能性が高い。
■加重な運動負荷で感染脆弱性
さて、プラトンは『ゴルギアス』において、“魂の健全性”を保つのはバランスのとれた食事と十分な睡眠に加えて適切な運動としている。現代でも疫学的に、運動を習慣的に行っている人は同年齢の対照に比較して、悪性腫瘍の発生頻度や上気道感染の罹患率が低く、平均寿命も長いという。
実際、近年の臨床的研究から、運動が免疫系さらに高次神経機能を含む全身に及ぼす影響が明らかになってきた。一般に、高齢者や慢性疾患を持つ人では定期的に中程度の運動を行うことは感染防御に有益であるという。
しかし、軽度―中等度の運動が活性を高める一方、過剰な運動負荷は抑制的に作用する。世間では、筋骨隆々たる、あるいはカモシカのようにしなやかなスポーツ選手は体力が有り余っていて、感染症など縁がないと思われがちだ。
だが、これは大いなる誤解である。
先に述べたように、適切な運動が感染に対する抵抗力を高めることは間違いがない。しかし、何事も過ぎたるは及ばざるがごとし。重要なのは運動負荷の量であり、健常者であっても加重な運動負荷は一過性の感染脆弱性を引き起こす。さらに肉体の限界までの競技やトレーニングを行なうトップ・アスリートは特に上気道感染や消化器感染に対して非常に脆弱である。その機序として、酸化ストレスや筋組織の損傷による一過性のNK活性低下や、長時間の交感神経興奮によるカテコールアミンや炎症性サイトカインの過剰分泌、腸管の虚血などが想定されている。
現在ではトップ・アスリートで喫煙者はまずいないが、スポーツ大会時の精神的緊張と不安、睡眠障害、国内国外への旅行と時差、食事と栄養、気温・湿度など自然環境の変化などに加えて、過激な運動自体が免疫を抑制し、感染リスクを増加させる。