無観客でサッカーの試合が行われた日産スタジアム。ピッチに入るフランスと日本の選手たち(c)朝日新聞社
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プラトン(gettyimages)
プラトン(gettyimages)

『戦国武将を診る』などの著書をもつ産婦人科医で日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授の早川智医師が、歴史上の偉人たちを独自の視点で分析。今回は哲学者プラトンを「診断」する。

【写真】哲学者にしてオリンピック選手でもあったといわれるプラトン

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 よく聞く言葉に「太った豚よりも痩せたソクラテスになれ」というのがある。前回の東京オリンピックの年に、東京大学の卒業式で当時の総長だった経済学者の大河内一男教授の祝辞にあるという。

 もともとは、19世紀英国の哲学者、ジョン・スチュアート・ミルが『功利主義論』の中で、“It is better to be a human being dissatisfied than a pig satisfied; better to be Socrates dissatisfied than a fool satisfied”(満足した豚であるより、不満足な人間であるほうがよい。満足した馬鹿であるより、不満足なソクラテスであるほうがよい)とのべた言葉の短縮形である。

 ただ、「不満足なソクラテス」を飽食する豚との対比から「痩せたソクラテス」と意訳したため、哲学者は痩せたインテリというイメージが広がっていった(実際には卒業式で大河内教授はそうはおっしゃっていないという記録もあり、真偽は不明である)

■三大哲学者とスポーツ

 では、現実はどうだったのか。

 ソクラテス、プラトン、アリストテレスは古代ギリシア盛期アテナイの生んだ三大哲学者であるが、彼らは各々、師の思想を発展させ、独自の哲学を生み出していった。ソクラテス自身についての体格や運動についてははっきりした記録はなく、あまりハンサムでなかったこと、奥方が悪妻だったらしいことしか知られていない。

 また、ソクラテス自身は著書がなく、弟子たちの記録を読むしかない。倫理を中心としたソクラテスの思想は、一番弟子だったプラトンの壮大な世界観に包括されるが、プラトンは運動について強い関心と主張を表明している。彼自身が優れたアマチュアレスラーで古代オリンピック「イストミア大祭」にアテナイを代表して出場したと弟子のアリストテレスが記している。プラトンの名自体が「肩幅の広い(プラエトウス)」から由来しているという説もある。

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