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「まったく同じ遺伝子を持ち、同じ環境で育った双子が、なぜ“同じ人間”には育たないのでしょうか?」
アメリカのユング派心理学者、ジェイムズ・ヒルマンの『魂のコード』(朝日新聞出版)を翻訳した占星研究家の鏡リュウジさんは、その不思議についてこう答える。
「それは巨大な樫の木がすでにたった一粒のどんぐりに内包されているように、あなたの中には生まれながらにあなただけの魂が存在するから」
鏡さんにヒルマン心理学の魅力、そして「おすすめの読み方」を語ってもらった。
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■セラピールームから抜け出した「魂」の心理学
『魂のコード』がアメリカで出版されたのは1996年のこと。専門的で難解な本ばかり出していたヒルマンが初めて一般向けに書いた「元型的心理学」の本で、全米ベストセラーになりました。
ヒルマンは心理学、精神分析の界隈では昔からブリリアントな存在です。日本でもその影響は大きくて、ユング心理学の泰斗・河合隼雄先生の「たましい」という有名なアイデアも、ヒルマンとの親しい交流の中から醸成されたものだと思います。ヒルマンは知識人としては一流で、あのエラノス会議の常連講演者でもありました。日本からは鈴木大拙、井筒俊彦らが参加していた、世界の名だたる識者が集って語り合っていた会議です。ただ、かつてはその知名度は専門家の中にだけとどまっていて、この『魂のコード』の大ヒットで一般の読者にも知られる著者になったんですね。
幸運にも僕はその日本語訳を手がける機会をいただいた。98年に河出書房新社から刊行され版を重ねてはいたんですが、残念ながらその後絶版になっていました。それがこの度、新装版として復刊される幸運に再び恵まれたというわけです。
ヒルマンが創始した元型的心理学はユング心理学の一分派です。彼は、個人の人生を「セルフ(自己)」を中心に分析するユング心理学を「セルフの一神教である」と批判的にとらえ直し、それを乗り越えようとしました。つまり、「こころの、そして世界のさまざまなイメージをそれ自体で大切にしよう」というのがヒルマンの立場なんですね。