第2次安倍政権では、まずは官邸。基本的には官房長官の菅の秘書官に説明し、それから党側に伝えた。ただ、外交案件が絡むものなど首相の安倍が関心を持つ政策は安倍の秘書官に先に説明し、直後に菅側に伝えた。「気を使ったのは官邸の中での根回しの順番。党は最後になった」。

■「強い官邸」の崩壊が始まっている

 栃木県日光市にある世界文化遺産、日光東照宮。陽明門に並ぶ12本の柱のうち、1本は逆さまに建てられている。建物は完成したと同時に崩壊が始まる、という言い伝えを逆手にとり、わざと1本を逆さにした。あえて未完成の状態にして、魔除けにしているという。この言い伝えは政治にもあてはまるようだ。

「安倍1強」と呼ばれた第2次安倍政権は、首相・安倍晋三と、現首相の官房長官・菅義偉が強い力を持った。その政権運営は「強い官邸」が主導する政治をめざした平成の改革の完成型と呼ばれた。ところが、新型コロナウイルス対策をめぐって政策が二転三転。コロナ対策の迷走は、「強い官邸」の崩壊が始まっていることの象徴に見える。

 安倍は2020年8月24日、首相としての連続在任日数が2799日となり、大叔父の佐藤栄作の2798日を超えて史上最長となった。前年11月には、同じ山口を地元に持つ戦前の政治家、桂太郎の首相としての通算在任日数を抜いていた安倍は、「佐藤超え」によって、二つの最長記録を塗り替えたが、4日後の8月28日に首相辞任を表明した。

 安倍政権を引き継いだ菅政権の迷走も続く。「官邸に行くのは嫌だ。コロナ対策もうまくいかず、菅さんのイライラが募っている」。2021年1月、事務次官同士でこんな言葉が交わされたという。官邸と官僚との意思疎通の不全を象徴するような会話だ。

 7年8カ月続いた第2次安倍政権で、菅は官僚人事の大部分を任された。異論を唱える官僚を露骨に更迭し、官僚にとって菅は恐怖の対象になった。そして官僚らは新たな政策を次第に出さなくなり、かつて「日本最大・最強のシンクタンク」とも呼ばれた霞が関は次第に活力を失った。

 事務次官経験者は、新型コロナウイルスの感染拡大をめぐり、政府の政策が後手にまわった背景について「長期政権の下で生まれた『指示待ち体質』が露呈し、官僚たちから新しい政策が出なくなった」と分析する。(敬称略)

暮らしとモノ班 for promotion
新型スマホ「Google Pixel 9」はiPhoneからの乗り換えもあり?実機を使って検証