「安倍政権では決定前でも官邸の方針に反対することは難しかった」と明かす。官邸と意見が対立すれば、「『反対する官僚を飛ばせ』と言われかねない。人事に調整の余地はない」。2017年8月初旬、霞が関で、ある記事が話題になった。霞が関の幹部人事を一元化する内閣人事局を批判する元首相・福田康夫のインタビューだ。

 福田は小泉内閣で官房長官を務めた。福田いわく、「各省庁の中堅以上の幹部は皆、官邸(の顔色)を見て仕事をしている。国家の破滅に近づいている」「官邸の言うことを聞こうと、忖度以上のことをしようとして、すり寄る人もいる。能力のない人が偉くなっており、むちゃくちゃだ」。福田はその後、日本記者クラブの記者会見で、このインタビューについて「そういう問題があるということを(安倍首相に)申し上げている」と語った。

■自民党への根回しは最後になった

 官僚出身のある自民党議員は、議員が政策について議論する党の部会の変化を痛感している。官僚として第1次安倍政権時、ある部会に出席した時のことだ。当時、当選2回だった衆院議員が「私は地元でこう言っている。そうしてもらわないと困る」と大声を上げた。当時、部長だった先輩官僚が、その議員をたしなめた。

「そう言われても出来ないものは出来ない。地元でそんな言い方をしてはいけませんよ」。15年ほど経った今、政治家と官僚の関係は大きく変わった。若手議員が無理難題を要求しても官僚は以前のように反論することはない。元官僚の議員は気の毒に思う。

「役人は本音が言えない。大変ですよ、今の役人は」。活力を失ったのは官僚の側だけではない。自民党の部会も出席議員が減り、活気を失った。かつては族議員がいて口角泡を飛ばす議論が続いた。

 今や、首相官邸の意向を受けて各省庁が決めた法案や方針を了承する場になり、元官僚の議員は「議員同士で議論して物を決めている感じがなくなった」と言う。官邸主導の政策決定が進み、党に力がなくなったことは官僚たちも身にしみて感じている。

 ある現職の事務次官は「官邸主導で党のことを気にしなくなった。官邸が決めたことなら、党から厳しい意見を言われなくなった」と明かす。時には怒声が飛ぶが、法案の根幹を左右するような指摘ではない。一方、党の部会に出ても意見が少なくなったことに寂しさも感じる。「一番嫌なのは関心を持たれないこと。『こんなものは大反対だ!』とか言ってくれた方がよっぽど励みになる。そうやって政策は磨かれていく」。

 事務次官経験者は、族議員が強かった時代、党と官邸双方に、同僚たちと手分けして根回ししていた時代を懐かしがる。「族議員が先か、官邸が先か、悩んだ。案件によっては、たった30分でも根回しの時間を間違うと政策が滞った」

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「気を使ったのは官邸の中での根回しの順番」