それを実現させているのが、玉井の回転力。155cmと小柄な身体をさらに小さく折りたたみ、鋭くキレイに回転していく姿は、純粋に美しい。回転が速すぎると回りすぎて入水が乱れる可能性が高くなってしまうが、玉井はタイミング良く身体を開いて回転を止め、真っすぐ入水していく。その水しぶきを立てないノースプラッシュの技術も天下一品だ。
何より、玉井には心強い味方がたくさんいる。多くの五輪選手を育てあげている馬淵崇英コーチはもとより、所属するJSS宝塚の馬淵かの子コーチは、1964年東京五輪の飛込代表選手。馬淵かの子コーチは、そのプレッシャーから思うような演技ができず、7位という結果に終わった苦い経験を持つ(当時は6位までが入賞)。地元開催のプレッシャーの高さは十分に知っており、その知識はしっかりと玉井に受け継がれていることだろう。
さらには大ベテランの寺内健、板橋、さらに女子高飛込代表の荒井祭里も同じクラブで切磋琢磨する仲間だ。
世界で戦い続けてきた寺内と行動を共にできることは、初の五輪の大舞台を踏む玉井にとってどれだけ心強いか。
ずば抜けた安定感を見せる玉井だが、実は緊張に弱い部分もある。自身初となる国際大会となった、今年5月に開催されたFINAダイビングワールドカップ。本来であれば余裕を持って予選、準決勝を通過できるところ、予選は15位とギリギリ突破。原因は2本目の207B(後ろ宙返り3回転半エビ型)のミス。本来であれば80点以上の得点を得られるところ、このときは39.60しか獲得できなかった。
ただ、そこから持ち直せるのも玉井の強さである。結局この予選時、最後に飛んだ6本目の5255B(後ろ宙返り2回半2回半捻りエビ型)で90点オーバーをマーク。試合中にもミスをリカバリーする能力も高いことを証明した。
「最近は演技の完成度も高いと思う。本番までに練習で上げた完成度を落とさないようにしたい。はじめての五輪で緊張するとは思うけど、あまり結果を意識しすぎず、楽しんで演技したい」
玉井陸斗が世界を驚かせるときは、もうすぐそこまで迫っている。※玉井が出場する男子高飛び込みは8月6日に開催
(文・田坂友暁 )