飛込界初の五輪メダル獲得に挑む玉井陸斗 (c)朝日新聞社
飛込界初の五輪メダル獲得に挑む玉井陸斗 (c)朝日新聞社

 ずっと彼の世界デビューを待ち望んでいた。玉井陸斗、14歳。

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 2019年4月、飛込競技の日本室内選手権・翼ジャパンカップの高飛込に当時12歳で出場した玉井は、初のシニアの大会だったにも関わらず、全く物怖じしない演技を披露。過去アジア競技大会にも出場してきた萩田拓馬に、なんと60点以上の差をつけて初優勝をかっさらったのである。

 それだけではなく、同年9月の日本選手権では、年齢制限で出場が叶わなかったFINA世界選手権(韓国・光州)の4位に相当する、498.50を叩き出して優勝。伸び盛りの玉井は2020年シーズン、さらに飛躍を遂げる。

 コロナ禍で大会が軒並み中止となるなかでも鍛錬を続け、2020年9月に開催された日本選手権では、528.80をマーク。この得点は、リオデジャネイロ五輪の銅メダルに相当するだけのポイントだった。

 飛込競技の採点は、ある程度決まったものもあるが、相対的な要素も含まれている。そのため、国内での競技会で出したポイントと、世界大会のポイントを単純に比較することはできないが、それでも500点を超える演技を当時若干13歳の少年が成し遂げたということが、何よりも驚異的だった。

 本来、飛込競技は身体ができあがるにつれて、演技の難易率を上げていく。つまり、経験値も重要な要素のひとつとなる世界だ。

 そのなかで、年端もいかぬ中学生が、世界大会で上位を争うような選手たちと同じ演技構成を身につけているのである。それが何よりも驚きであり、玉井の身体能力の高さを物語る良い材料となっている。

 特に、前宙返り4回転半抱え型の109Cと呼ばれる技。玉井と練習をともにする、リオデジャネイロ五輪で8位入賞を果たした板橋美波が、女子選手としてただひとり、競技会で成功させた技として有名だ。

 これは現在2番目に難しい技であり、日本国内でこの種目で高得点を叩き出せるのは玉井しかいない。さらに玉井は、この技とほぼ同等の難しさの演技をあと3本も飛ぶことができ、その完成度も高く80~90点を獲得できるほどである。

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