■妻からのサイン気づけずに離婚

 夫の反対を押し切り、離婚届を置いて家を出たのが3年前。ユウコさんは現在、会社初の女性役員となった。

 老後も何となく一緒に暮らしていきたい夫と、新たなチャレンジをしたい妻との間では、温度差が大きい。

 定年退職したその日に、5歳年下の妻から離婚をつきつけられたジュンイチさん(仮名、62歳)は、まさに「青天の霹靂(へきれき)だった」と言う。

結婚して30年、ごく普通の夫婦だと思っていました。暴力をふるったこともないし、借金をつくったこともない。浮気は皆無とはいいませんが、飲んだ勢いで一度きりという関係です。離婚されるようなことは何もしていない。妻にそう言ったら、『何もしていないから離婚なのよ』と静かに言われました。あのときの妻は迫力があった」

 妊娠、出産、そして年子のふたりを抱えて悪戦苦闘の育児……。妻は昔のことを持ち出した。折に触れて自分は助けてほしいとサインを出してきたのに、あなたは無視した、と。

「言ってくれれば何でもしたのに。当時、妻の母が近所に住んでいて助けてくれていたので、なまじ私が手を出さないほうがいいと思っていた。ちゃんと言葉にすればよかったじゃないかと言ったら、『言われなくても私がどんなに大変だったかわかるはずでしょ』って。不用意な私の発言も覚えていて責められました。後半生を一緒に生きていくのは無理だと。しかたなく離婚届を書きました」

 その2年後、57歳になった妻は10歳年下の男性と再婚した。

「長年一緒にいるからこそ、年をとってから夫婦のありがたみがわかったり味わいが出てきたりするものだと私は信じていました。でも妻はそう思っていなかった。常に新しいことにチャレンジするのが好きだった。その集大成が、私との離婚、若い男との再婚だったのかもしれません」

 個人差はあるものの、熟年になって新たなチャレンジを好む女性は少なくない。逆に、これまで築いてきた家庭がずっと続くものだと疑わず、習慣や惰性に流され、保守的になるのは男性。

 ひとりの人生を歩き出す女性たちは身勝手なのか、それとも正直に生きられる時代が来たと思うべきなのだろうか。

週刊朝日  2021年8月13日号より抜粋

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