「国に見捨てられていると思います」。高校2年の娘と母親の3人で暮らすが、昨年、コロナ禍で契約している会社の状況が悪化し、数社から契約を切られたりした。収入は半減した。

■五輪の是非は総選挙で

 フードバンクなどから食料品を支援してもらうなどして生活をやりくりする。しかし、これからの子どもの養育費や自身の将来を考えると不安がよぎる。それなのに、国からの補償はあまりに少ないと言う。

「ただでお金を下さいといっているのではありません。せめて、コロナで先が見えない間だけでも補償してほしい」

 困窮家庭の子どもの学習支援をするNPO法人「キッズドア」(東京都)理事長の渡辺由美子さんは、長引くコロナの影響で、困窮子育て家庭の保護者は疲れ切っていると指摘する。

 今年6月末に、同NPOが支援している全国の困窮子育て家庭約2400世帯に行ったアンケートでは、年収300万円未満が約9割を占め、貯蓄額10万円未満が51%になった。

「五輪のために困窮者や困窮子育て家庭の支援が後回しになるのはあってはならない。今すぐに国は、困っている困窮子育て家庭に現金給付を決定して、心配で夜も眠れない保護者を助けてほしいと思います」(渡辺さん)

 先の星さんは、菅首相は今後も五輪に関してメッセージを出すことはないだろうと見る。

「五輪に限らず、菅首相の話法は、自分の言いたいことだけを表明するやり方です。五輪についても、米紙のインタビューで答えたように『国民がテレビで観戦すれば考えも変わる』という姿勢で、自ら説得する気はありません。結局、五輪開催の是非は、衆院の解散・総選挙で問われることになります」

 それまでに何人、コロナに感染して亡くなる人が出るのか。7月31日、東京の感染者は過去最多の4058人を数えた。(編集部・野村昌二)

AERA 2021年8月9日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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