東京五輪の開会式に合わせ、都庁上空を通過するブルーインパルスの編隊。5色のカラースモークを出しながら飛行した (c)朝日新聞社
東京五輪の開会式に合わせ、都庁上空を通過するブルーインパルスの編隊。5色のカラースモークを出しながら飛行した (c)朝日新聞社
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 新型コロナの新規感染者が急増する中で東京五輪は続く。一方で、コロナ禍で生活に苦しむ人や複雑な感情を抱く人がいる。これまでも様々な「我慢」と「犠牲」を強いてきた五輪。その意義をいま一度、問い直す。AERA 2021年8月9日号の記事を紹介する。

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 一体、東京五輪は誰のための五輪なのか。AERA本誌が7月22~25日、ネットでアンケートを取ると140件近い回答があった。

「政府やIOC、そして、お金や権力のある人のため」(26歳、会社員女性)

 と、多くの人が一部の人間の利権のための五輪だと回答した。

 政治ジャーナリストの星浩さんは、「菅義偉首相、バッハ会長、米テレビ局のNBCのための五輪」と指摘する。

「菅首相は『コロナ克服の証し』と位置づけ、五輪の成功を政権浮揚につなげようと狙いました。バッハ会長は放映権料を確保し、IOCの権益を維持しました。NBCは、莫大な広告収入を獲得するために米国の時間帯に合わせて試合を組み、NBCが儲けるという五輪の基本構図は変わっていません」

 星さんは、菅首相はワクチン接種を加速して五輪を成功させれば秋の解散・総選挙、自民党総裁選も勝ち抜けるという「賭け」を続けたと言う。

「しかし、結果的に菅首相の政治的『賭け』に国民が巻き込まれることになりました。賭けが失敗してコロナ感染拡大となれば国民が不幸。仮にコロナ感染が広がらず五輪を乗り切ったとしても、五輪の賛否をめぐって分断が深まり国民は不幸に。さらに入場料収入が見込めなくなるなど莫大な財政負担が残され、五輪後も国民生活を圧迫します。感染の危険にさらされ、観客の応援もない中で競技をせざるを得ない選手も不幸です」(星さん)

■国に見捨てられている

 作家の北原みのりさんは、誰のための五輪か「わからない」と話す。

「これだけ反対の声が多かったのに開催して、誰のための五輪かという大義も成り立たなくなっています。誰のための五輪かわからなくなり、多くの人が五輪を楽しめなくなっていると思います」

 その結果、社会的弱者が犠牲になっていると指摘する。

「追いやられるのは、特に女性です。日本は、女性の福祉にお金が回っていない社会。非正規雇用者全体の約7割が女性の中、コロナによるパンデミックのようなことが起きると、あっという間に生きていけなくなる人が出てきます。そうした人たちに対して十分な補償がありません。今、ぎりぎりのところで生きている人がどれだけ多いか。それが政治家には見えていない恐ろしさがあります」

 都内在住のフリーランサーのシングルマザー(54)は、心境を吐露する。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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