では、漢方は歯科でどのように使われているのか。最も多いのは口内炎に対してだ。

「誰にでも口内炎はできますが、再発性アフタといって、繰り返し、何年にもわたってできるタイプがあります。この病気にはうがい薬や軟膏、ビタミン剤が処方されますがなかなかよくならない。これに対して漢方薬を使うと口内炎ができにくくなり、再発までの期間が延びてくる。次第にできる回数が減り、完治できるものもあるのです」(同)

 ベーチェット病の症状である治りにくい口内炎が漢方薬でコントロールできたケースなども学会誌で報告されているが、珍しいことではないという。

 口腔乾燥症(ドライマウス)に対しても漢方薬が有効だ。従来の治療は唾液腺マッサージや保湿剤。ここに水分の代謝を整える漢方薬の五苓散(ごれいさん)や白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)を使うと、口の中が潤い、症状が改善しやすい。

「味覚障害は亜鉛欠乏が一つの要因ですが、亜鉛の服用でよくならない場合、漢方薬の補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を併用すると改善することが多いです。この漢方薬は食欲不振を治す作用があり、体力を補強する。食欲が戻ってくると同時に味がわかるようになるケースがよくあります。私はこの処方がコロナの後遺症である味覚障害にも効く可能性が高いと推察しています」(同)

 さらに山口歯科医師が注目しているのはオーラルフレイルに対する漢方治療だ。オーラルフレイルは老化のために起こる口の機能の低下だ。進行すると誤嚥(ごえん)も起こるようになり、寿命にも影響する。からだの機能の低下であるフレイルより前にあらわれるため、早期発見と対策が重視されている。

「漢方薬の半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)には嚥下反射(口の中の食べ物をのどから食道まで一気に運ぶ運動を起こす反射のこと)を高め、誤嚥を予防する効果があることが報告されています。また、補中益気湯は胃下垂(かすい)や内臓下垂にも使われる漢方薬ですが、筋力をアップするという研究報告もある。私の患者さんにもこの漢方薬の処方で口の筋力が上がったケースが複数あり、今年9月の学会で発表予定です」(同)

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