落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「開会式」。
* * *
五輪の真裏、7月21日から30日まで上野鈴本演芸場昼の部でトリをとっている。私に言わせりゃあっちが裏なのだが、寄席の楽屋のテレビでは五輪とコロナのニュースばかり。それを観ながらヤイヤイ言うのが楽しい。
「ホントにやんのかねぇ?」「まだ決まってないらしいですよ」「マジか?」「えぇ、やるときは明日の朝6時30分に校庭で花火があがるらしいです」「運動会かよ(笑)」。中年芸人が話していると10代の前座が「へー、そうなんですか!?」と真顔。「……いやいや、学校の運動会の朝さ、開催するときは花火あがったろ?」「いえ。親のPTAのグループLINEでお知らせがきましたよ」「……もういいよ、向こう行け」
「最後の聖火ランナー、誰だろうね?」「長嶋さんって噂がありますよ」「いやー、無いだろ。お年だし。なぁ?(前座にむかって)」「ナガシマさんって誰ですか?」。絶句する中年2人。気を取り直して。「長野五輪のときは誰でしたっけ?」「ほら、あの人、ヤワラちゃん」「違うでしょ」「小谷実可子?」「違うなぁ」「女性?」「でしたよ」「Qちゃん?」「うーん」「山口香?」「遠ざかったような……」。横で前座がスマホで調べて「イトウミドリっていう人みたいですよ」「うるせえよ!! 正解なんてどーでもいーんだよっ!!(怒)なんで長嶋さん知らない奴から伊藤みどりを教わんなきゃなんねーんだよっ!!……あ、でも思い出した。確か卑弥呼みたいなカッコしてた! そう言えばあの日、俺インフルエンザで布団の中でテレビ観てたんだった」。これは20歳の時の私の話。
「開会式のディレクターが解任されちゃって、どうなるんだろうね?」「穴が開いたなら、俺たち寄席芸人が5人も居れば3時間くらい平気で埋められるのにな。声かけてくれりゃ行くよ」「ねぇ。通訳付きで外国人にも分かりやすい落語やってさ、紙切りの師匠にスクリーン使って披露してもらえれば世界中ひっくり返るよね」「バッハさんが空気読まないで『ゲイシャ!』とか紙切りの注文してくるかもな(笑)」