日本コカ・コーラ社が募集するオリンピック開会式のプラカードベアラーに応募したのも、そういったチャレンジの一つだった。茂木さんは、カンボジア、タンザニア、ペルーを担当し、無事に役割を終えた。
「終わった後は『転ばなくてよかった~』ってホッとしていたんです。それで携帯電話を見ると300件以上もメッセージが届いていて。朝の4時ぐらいまでかかってホテルでそのメッセージを読んでいたら、涙が出てきました」
大役を終えて福岡県の自宅に帰ると、夫は茂木さんの好きなモンブランのケーキと花束を用意してくれていた。家族のサポートもあって、茂木さんの活動はさらに広がり、今では陸上のほかにトランポリンも楽しんでいる。息子がデザインしてくれた義足をもっと多くの人に見てもらうため、ミセス・コンテストにも出場するという。
ただ、すべての義足ユーザーが茂木さんのような人ばかりではない。スポーツ庁の調査によると、成人の身体障害者の中で、週に1回以上運動をする人の割合は24・9%(20年度「障害者のスポーツ参加促進に関する調査研究」)。日本人全体が59・9%であるのに比べると歴然とした差がある。特に茂木さんのように膝上切断の人は、最初から運動することをあきらめてしまう人が多いという。
だからこそ、茂木さんは積極的に表に出ようと考えている。
「実は、義足だからってできないことって、あまりないんです。私は階段が大変なぐらい。最近では私がいろんなことに挑戦していることを知って、周囲の人から『元気をもらった』と言ってもらうことも増えたんです。それで『いくつになっても、やればできる』って変な自信も持つようになってしまいました(笑)。コロナが終わったら、沖縄にスキューバダイビングに行くつもりです」
オリンピック精神をあらわすものとして「勝つことではなく、参加することに意義がある」というフレーズがある。これは選手だけではなく、大会に参加したすべての人たちに通じることだ。茂木さんの挑戦は、たとえ小さくてもオリンピックに新たに歴史を刻んだ。
(本誌・西岡千史)
※週刊朝日 オンライン限定記事