「もうひとつ欠かせないのは、月の終わりに30日間のノートを全て読み返すこと。自分の本音と向き合い、感情を大切にし、寄り添ってきた日々の振り返りで、もう一度自己受容ができるのです」(同)
■水性ネイルペンで回復
美しく装った自分を見てうれしくなる。そんな経験がある人は多いのでは? そういう意味では、化粧は究極の「自分推し」とも言える。実際、化粧で心身機能を上げるメイクセラピーも注目を集めている。認知症の人でも安全に使えるマニキュアを開発した「ラヴィーナ」の堀口カストゥリさんも、メイクセラピーの効果を実感した一人だ。
コーラスが趣味で「一人カフェ」を楽しむほどアクティブに過ごしていた堀口さんの祖母に変化が生じたのは、コロナ禍でのことだった。
「友達と会わなくなり、一人暮らしの自宅にこもりきり。気づくと、全く話さなくなっていて、顔も無表情。化粧はおろか、電話や入浴もできないほど、認知症が一気に進んでいました」
自活が困難となり施設入所へ。面会の際、堀口さんはいつも身ぎれいにしていた祖母を思い、爪に真っ赤なマニキュアを塗った。すると祖母が爪をじっと眺め、「ありがとう」と返してくれた。1週間後の面会時には、「施設の人が(爪を)褒めてくれた」と報告してくれた。
「私の名前も年齢も忘れていたのに、マニキュアのことは覚えてくれていたんです」
面会の度に祖母の爪にマニキュアを塗ると、驚くほど祖母は回復。コミュニケーションが復活し一緒にカフェに行けるまで認知機能を取り戻した。この経験を通し、堀口さんは高齢者や認知症の人でも安全に使えるマニキュアの開発に乗り出した。試行錯誤の末、誕生したのが水性ネイルペンだ。爪を傷めず、手で剥(は)がせ、口に入っても安全。
「将来的には、障害者や抗がん剤治療で爪が変色したがん患者さんなどにも使ってもらえればと考えています」(堀口さん)
老若男女問わず、自分と向き合い、感情を尊重し、ありのままの自分を認めることは人生において大切なこと。自分を大切にする「自分推し」、今日から意識してみませんか。(ライター・羽根田真智)
※AERA 2022年12月5日号