「建築については、なぜだか“降ってくる”んですよね。数寄屋建築のときもそうでしたが、今回の尾崎邸についても、ずっと眺めているうちに、『素敵な建物だけれど、このままではヤバいな』と、だんだん自分の心配事のようになってきたんです。ただ一人では何もできないし、壊れるのを待つしかないのかな──と思っていたら、近所の方をはじめ、賛同してくれる人たちが現れて、とうとう成功してしまった。途中、信じられないような不思議な展開があったりして、『これは作品に描かなきゃ』と思いました」

 とはいえ「建築を守るためのリーダーになるつもりはなかった」と、山下さん。土地を分譲するための開発道路を造るお知らせが届いたのを機に、近所の人たちに聞いてみると、みな建物に愛着があり、「なくなってほしくない」と思っていることがわかった。

「私の周りには建築に詳しい人がいたので、『何とか残せないか、試しにやってみようか』と。実は詳しい知人がいろいろやってくれると思っていたんですが、途中から『こういうことは地元の人たちがやらないと』と言われて。もう引き返せないタイミングだったので、結果的に私が表に出て、やることになったんです」

 現在、洋館の所有権は保存会が持ち、改修工事の方針や活用方法を検討中だ。

「古い建築を維持していくためには、法律が変わらないと難しいと痛感しました。コツコツと前例を作っていくしかないですね」

(ライター・矢内裕子)

AERA 2021年8月16日号-8月23日合併号

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