そのキャピトル東急ホテルで馬場さんと一緒に食事していると、ホテルスタッフが葉巻用にマッチを持ってきたんだけど、その箱に「SHOHEI BABA」と書かれていたのにはびっくりしたね! 馬場さん用のマッチがホテルにあるんだよ! それで馬場さんに「すごいですね!」って言うと、馬場さんは「そうかぁ……」なんて言いつつ、すごく嬉しそうにするんだよね。「ああ、馬場さんもこんなに嬉しそうな顔をするんだ」って思ったのをよく覚えている。
馬場さんは時計や靴、土地や物件のように資産価値があるものを買うのが好きだった。アントニオ猪木さんもいつもビシっとした恰好をしていてさすがだと思うけど、金の使い方は馬場さんと逆でビジネスに使う貯めないお金。馬場さんは資産価値を高める貯める金の使い方をするから、これも対照的だよね。そういう意味では、天龍は「貯まらない金」の使い方だから、金の面では猪木イズムだな(笑)。
馬場さんからは「天龍、おしゃれは靴からだぞ!」と教えられて以来、俺も靴には結構、金をかけているんだ。馬場さんはいつもグッチの特注の靴を履いていたし、俺もフェラガモ、グッチ、ルイ・ヴィトンの靴を愛用している。いい靴は履き心地が全然違うし、長く履いていても疲れない。服はよく後輩レスラーにあげたりしたけど、靴は一度履くと愛着が生まれて、その靴の履き心地がいつもよみがえるもんで、なかなか後輩には譲れないでいる。
それでも、最近は新型コロナウィルスの影響もあって外出する機会が減ってるから、物への執着もなくなってきたなぁ。本当は娘の夫に服や靴をあげたいんだけど、彼が身に着けるとブカブカだし、これからもっといい体になることに期待するかな(笑)。そろそろ、ぼちぼち処分していかないと。俺も終活だな。
最後に「俺が他人にうらやましがられる宝物」だって? ちょっとキザな言い方になるけど、やっぱり女房である“嶋田まき代”だ。俺が若いころ、毎日のように遊び歩いていると、仲間から「源ちゃん、奥さん大丈夫?」なんてよく心配されたもんだ。当時は俺も若いし「いいんだよ、女房なんて」とか言っていたが、今思い返せば文句ひとつ言わずに遊ばせてくれたし、いつも帰りを待っていてくれたね。必要以上の金を使っていたし、ゴールドカードを初めて持ったときは「まき代、ゴールドカードは現金が減らなくていいな!」なんて言って「嶋田家の口座から引かれているのよ!」と本気で怒られたこともあったっけ(笑)。
新日本プロレスのブッキング担当とも女房が交渉していて「源ちゃんの奥さんは手ごわいからなあ」と言われたときは、嫌味でもなんでもなく、俺も嬉しく、鼻が高かったよ。そんな彼女の血を引いた娘も「いい付き人ですね」と言われることも多く、彼女自身も喜んでいる。
車や時計は俺が経営していた店や団体が苦しいときに手放してしまったけど、最後まで残ってくれたのが嶋田まき代と娘の紋奈だ。いろいろなことをサポートしてくれて、つくづくありがたい。歳を重ねるごとに本当にそう思うようになった。俺が結婚して、三角の性格が楕円形になったのは、間違いなく女房のおかげだ。ありがとう! ネットには文字としてずっと残るだろうから、ここで言っておこうと思ってね(笑)。
(構成・高橋ダイスケ)
天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ。「ミスター・プロレス」の異名をとる。63年、13歳で大相撲の二所ノ関部屋入門後、天龍の四股名で16場所在位。76年10月にプロレスに転向、全日本プロレスに入団。90年に新団体SWSに移籍、92年にはWARを旗揚げ。2010年に「天龍プロジェクト」を発足。2015年11月15日、両国国技館での引退試合をもってマット生活に幕を下ろす。